きらびやかなあのクリスマスパーティーから約3ヶ月が過ぎようとしていた。なんとエヴァンズさんはあの時のエヴァンズさんで(すっかり忘れていた!)今ではたまに食事を一緒にする仲になった。かちかちとフレッドがラジオのダイヤルをまわす音とジョージが新聞をめくる音が遠くに聞こえる。今朝の食事当番のフレッドが作ったスクランブルエッグをフォークでつつくのをやめて、わたしの向かいに座るジョージを見つめるとジョージの輪郭はぼやけて見えた。あれ、そういえば頭が重い気がするなあなんて考えていると視界がぐらついて、ジョージのびっくりしたような顔を最後にわたしはぎゅっと目をつむった。ああー、きもちわるい。







NO CALL
NO LIFE








ひんやり、なにか冷たいものがおでこに乗せられたのを感じてうっすら目を開けると、視界に映る2つの赤と黒が1つ。

「カノン!」
「…フレッド?」
「ジョージだよ」
「………あれ?」
「こりゃ相当だな」

ぼうっとする頭をぐるぐるまわしていると、ジョージがぱふぱふとわたしに掛かるふとんをたたいた。ん、ふとん?そこでわたしははじめて自分がベッドに寝ていることに気づいた。でも、なんで?わたし、ちゃんと起きたはずなのになあ。うんうん唸っているとわたしのおでこに手がぽんっとのせられて、その手をたどった先にいたのはほっとしたように笑っているアンジェリーナだった。

「アンジー、いらっしゃい」
「いらっしゃいじゃないわ!びっくりしたわよ!」
「どうして?」
「あなたがいきなり倒れたって、フレッドから連絡をもらったの」

アンジェリーナにそう言われてはっとする。そうか、わたし朝ごはんの途中で倒れちゃったのか。ぐるりとまわりを見るとここはわたしの部屋で、ここまで運んでくれたであろうフレッドとジョージを見上げると、2人は少し困ったように笑ったあとに同時にわたしの髪をぐしゃぐしゃにした。

「びっくりさせんなよな」
「ごめんなさい」
「とりあえず今日は寝てるんだぞ」
「でも、お店が」
「そのためにわたしが来たのよ」
「そんな、悪いよ」
「いいから!カノンはちゃんと寝てなさい」
「うー」
「い・い・わ・ね?」
「…ありがとう」
「よろしい!」

じゃあまた来るわ!と言い残してフレッドとアンジェリーナは部屋から出ていった。2人が出ていったドアの方を見ていると、ぎしっと音をたててジョージがベッドに腰かけた。わたしのおでこから水で濡らしたタオルをどかして黙って汗で張りついた前髪をすいてくれるジョージの手が気持ちよくて目をつむる。するする髪をすいていた手が下にさがってわたしのほっぺたをなでる。それが少しくすぐったくて目を開けると、ジョージはふんわり笑って背中を屈めてわたしのほっぺたに軽くちゅうをした。

「つらい?」
「ううん、へいき」
「最近は暖かかったり寒かったり天気が安定してなかったから、きっと気温の変化に身体がついていかなかったんだな」
「そうなのかなあ」
「そうだよ、その証拠にカノンは毎年この時期になると必ず体調を崩す」

そう言っていたずらっぽく笑うジョージにつられて笑うと、ぐんっとジョージとの顔の距離が縮まった。びっくりして目をぱちぱちさせると、ジョージはわたしにでこぴんをひとつお見舞いした。なんだよ、期待、させといて。

「いたい」
「倒れるまで無理したおしおきだ」
「うう…」
「今度からは体調が良くなかったらちゃんと言うこと、わかった?」
「…はい」
「ん」

やさしく笑ってわたしの頭をなでるジョージを見てわたしの顔は急にあつくなった。ジョージってばまたかっこよくなったんじゃ、なんて考えていたからでは決してない。そうだ、これは熱があるからなのである。それがジョージにばれないわけがなくて、あわててふとんを頭までかぶろうとするもあっさりジョージに阻まれてしまって。余計に赤くなったであろうわたしの顔を見てニヤッと笑ったジョージは、手のひらをわたしのほっぺたにあててそのまま親指で唇をなぞった。

「キスしてほしいなら言えばいいのに」
「ちっ、ちがうもん!」
「まあ俺がしたいだけだけどね」
「ばっ!だめ、風邪、うつる」
「関係ないよ」
「ジョージ、待っ」
「だめ、待てない」

そうして降ってきた唇にわたしは脳みそまで溶けそうになって、脳みそまで送られるはずだった酸素はジョージに横取りをされてしまった。その流れでわたしのブラウスのボタンに手をかけたジョージにアンジェリーナの飛び蹴りが炸裂したのは、また別のおはなし。


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