「わたしたちの魔法で、みなさまが少しでもしあわせな気持ちになれますよう、メリークリスマス!」

そう言ってカノンが杖をひと振りすると天井は満天の星空に変わり、そこからぱらぱらと真っ白な雪が降っては床につく前で消えた。さすがはカノン、きっとホグワーツの大広間のあの天井を再現したに違いない。一層にぎやかになったサロンに、なんだかほんとうにダンスパーティーの時みたいだなあなんて考えながら隣の相棒と目を見合わせて、きれいな夜空に花火を打ち上げるべく杖を振った。







NO CALL
NO LIFE








魔法を見せてからというもののカノンはすっかりマグルたちに取り囲まれてしまった。幸い悪い意味でカノンに近づいている輩はいなさそうなので、僕は熱心に杖のことについて聞いてくるマグルたちの中から抜けてエヴァンズさんを探した。サロンの一角では丸テーブルを壁側に寄せてスペースを作ってフレッドとアンジェリーナが小さい子供たちを順番に箒に乗せてあげていた。それに手を振りながらサロンを出て少し寒い廊下に出ると、上等そうな黒のテイルコートに着替えたエヴァンズさんが飾られている絵画を見つめていた。話そう話そうと思っていたはずなのに、いざ目の前にすると何を話していいのか、話しかけてもいいのかさえわからなくなる。どうしようかひとりで唸りながら迷っていると、僕に気づいたエヴァンズさんがにっこり笑った。

「君も休憩中かね?」
「あー…はい、そんなところです」
「私もだよ、少し、はしゃぎすぎてしまったね」

そう言って絵画に向き直ったエヴァンズさんを見て、僕の口は自然と開いていた。

「あなたと会うのは、これで2度目です」

エヴァンズさんは少しびっくりしたようにゆっくり振り向いて、でもそのあとすぐに目を細めて笑った。

「君の方だったか」
「はい」
「なんとなく、そんな気はしていたのだがね、確信がなかった。それじゃ、君がジョージだね?」
「よく覚えてらっしゃいますね」
「『夏風邪フレッドくん』もすっかり元気になったようだ」
「そりゃあ、もう14年も前のことですから」
「そうか、もうそんなになるか…」

そう言ってエヴァンズさんは絵画に触れた、そこまで歩いていって隣に立つと、あの時とは逆に僕の身長の方が大きくなっていた。

「まさか、今日招待してくれたのがあのエヴァンズさんだと思いませんでした」
「私もまさか君が覚えてくれているとは思わなかった」
「ついさっき思い出したんです、知り合いに『マグルの』エヴァンズさんはいませんでしたし」
「なに、今ではさしてマグルと変わらんよ。めっきり魔法は使わなくなってしまったからね」
「それでも、あなたは立派な魔法使いでしょう?」
「君たちこそすばらしい魔法使いと魔女になった、先ほどの魔法は実にすばらしかった」
「あれをやったのはほとんどカノンですよ」

僕がそう言うとエヴァンズさんはにっこり笑っていつかの夏みたいに僕の頭の上にぽんっと手をおいた。
エヴァンズさんとはじめて会ったのは僕たちがまだ4歳の時、夏風邪をひいたフレッドのためにカノンと2人で隠れ穴近くの小川に花を摘みに行った時だった。ひとりで岩の上に座って小川を眺めていたエヴァンズさんは、僕とカノンに気がつくとにっこり笑って手招きをした。元から警戒心が薄く人見知りもしなかった僕とカノンがエヴァンズさんの方に走って行くと、エヴァンズさんは杖をひと振りして両手いっぱいの飴玉をくれた。それからもエヴァンズさんが見せてくれた魔法にカノンはすっかりなついてしまって、それから小川に来た目的なんてすっかり忘れて陽が暮れるまで3人でそこにいたものだった。だけどその次の日、きっちりフレッドから風邪をうつされた僕とカノンはしばらく小川に行かせてもらえなくて、治ってからいくら小川に行ってもエヴァンズさんに会うことはなかったのだった。だから僕とカノンがエヴァンズさんと会ったのはたったの1回きりで、もちろんフレッドはエヴァンズさんを見たことすらなかったのだ。

「あの日、私は長年連れ添った妻を亡くした直後でね、まだ幼い君たちにはすっかり励まされたものだった」
「漏れ鍋のトムにカノンのことを聞いた時はまさかとは思ったがね、あの子はあの時と同じ顔で笑いかけてくれたよ」
「覚えていようがいまいが構わない、彼女をパーティーに誘ったのはほんのお礼なんだ。あの時君たちに会っていなければ私はずっと妻のことから立ち直れなかっただろうから」
「残念ながらカノンは私のことを覚えてはいなかったけれどね。ああ、決して責めている訳ではないのだよ」

「無理もない、君たちはまだこんなに小さかったからね」と言って懐かしそうに笑ったエヴァンズさんにつられて笑う、14年前のあの夏の日みたいに。

「ジョージ」

こつこつヒールの鳴る音と僕を呼ぶ声にくるんと振り返ると、ふわふわのドレスをひらひらさせたカノンが歩いてきて、いつもみたいにきらきら笑うカノンを見て僕とエヴァンズさんは顔を見合わせてにっこり笑った。ねえカノン、はやく君にもエヴァンズさんのことを思い出してもらいたいよ。

「エヴァンズさんも、2人共ここにいたのね」
「やあカノン、すばらしい魔法をありがとう」
「いえ、こちらこそ、今日はありがとうございました」
「楽しんでくれているかね?」
「ええ、とっても!…ジョージ?なに笑ってるの?」
「いや、なんでもないんだ。それよりもカノン、きみ、覚えてるかい?14年前のあの夏の日のことを!」


100310


「さあ、もうそろそろお帰り、家族が心配しているよ」
「おじさん、またあえる?」
「ああ、会えるとも」
「ほんとう?」
「ぜったいさ」

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