「カノン!」 隠れ穴の暖炉の中から出た瞬間に抱きついてきたジニーをびっくりしながらも受け止めると(そしてわたしをジョージが受け止めた)ジニーは真っ赤な長い髪をゆらしながらにっこり笑った。 「まってたわ!」 「久しぶり、ジニー」 NO LIFE 「というわけで、カノンは今日1日わたしとおはなしするからじゃましないでね、特にジョージ」 ぴしゃりとそう言ってのけたジニーにフレッドとロンは「そんな!」とハモって、ジョージとハリーに至っては絶句していた。 「ジニー!カノンを独り占めだなんていくら妹といえど許さんぞ!」 「なによ!フレッドとジョージはカノンと一緒に暮らしてるじゃない!」 「僕だってカノンと話したいんだ!」 「あなたはママから芽キャベツの皮を剥くように言われていたわ!」 ぎゃあぎゃあ言い争いをはじめるフレッドとロンとジニーをおろおろしながら見つめるハリーと苦笑いし合ったあとに「カノン、もてもてだね」「どうもありがとう、ハリー」未だぼけっと立ち尽くすジョージの方に近づいてセーターからのぞいたジョージの指先にちょっとだけ触れる。ジョージの指はぴくっと動いて、そのまま指先をきゅっと握ると、ジョージは目をぱちぱちさせたり口をぱくぱくさせながらわたしを見てきて、それがなんだか魚みたいで可笑しくなって少し吹き出して笑った。 「ジョージ、またお夕飯の時にね」 「…カノン」 「ほら、ジニーとはあんまり会えないからいっぱいおはなししたいんだ」 「もちろんハリーとロンともね」と言って2人に笑いかけると、ハリーとロンはなにかもごもご言ったあとに小さく笑ってくれて、でも次の瞬間にはわたしはジョージの腕の中にすっぽりおさまってしまった。 「夕飯の時は一緒に座ろう」 「うん」 「それから夜は一緒に寝よう」 「それはちょっと」 「ジョージったら!」 ジョージの腕の中から解放されて、ぶつくさ文句を言うジニーに「まったくジョージったらわたしのカノンになんてことを…」手を引っ張られてジニーの部屋に行くと、ジニーはわたしに部屋に『耳塞ぎ』の呪文をかけてくれとせがんだ。ほんとうにここのお兄さんたちは妹に信頼されていないらしい。 「それじゃあカノンはあしたパーティーに行くのね?」 「うん、夕方からね」 「うわあ、すてきね!」 ジニーがハーマイオニーからもらったというマグルの雑誌を見ながらジニーの長い髪に櫛を通す。余計にさらさらするするになった髪にゆるく癖をつけてから、髪をひとつにまとめて上の方でくるんとまとめてピンでとめる。形を整えたあとに残しておいた襟足の髪を左右に分けてくるくる巻くと、鏡に映ったジニーはいつもよりずっと大人っぽく見えた。 「できた!」 「すごいわ!ありがとうカノン!」 「どういたしまして、すごく似合うわ、ジニー」 「そうかしら」 「うん、きっとハリーもどきどきすると思う」 「もう、カノンったら変なこと言わないでちょうだい」 顔を真っ赤にしてそう言うジニーはすごくかわいくて、どうやら恋はひとをきれいにするというのはほんとうらしい。ハリーも、はやくジニーのこのかわいさに気づいてくれればいいのになあ。 「あれ、フレッドとジョージ?」 「ん?」 「ほらあそこ、村に行くみたい」 窓の外、ジニーが指差した方を見ると、おそろいのマフラーをぐるぐる巻きにしたフレッドとジョージがちょうど雪の積もる中庭を横切って行くのが見えた。途中雪をぶつけ合いながら村の方に歩いていく2人は、いくら身体が大きくなってもやっていることは小さい時と変わっていなくて、それをくすくす笑いながら見ているとジニーがきょとんとした顔をした。 「どうしたの?」 「ううん、なんでもないの」 「あの2人、どこに行くのかしら」 「さあ、村の雑貨屋さんにかわいい娘でも働いてるんじゃない?」 「…それっていいのかしら」 「お夕飯までには帰ってくるでしょう」 「そういうことじゃなくて、カノン」 「どうせならわたしにも紹介してくれればいいのになあ」 「カノン、あなた、それ、ほんとうに?」 「うん?あ、おばさまが呼んでる。ジニー、お手伝いしに行かないと」 わたしがそう言って立ち上がると、ジニーは少しだけ眉間にしわを寄せたあとに盛大なため息をついた。よっぽどフラーに会いたくないんだろうなあと思って苦笑するとジニーもおどけて肩をすくめてみせて、2人で並んで階段を降りた。 「ああもう、どうしてビルったらよりによってあんな『ヌラー』なんかを選んだのかしら」 「フラーも普段はいいひとだよ、きっとジニーとも仲良くなりたいって思ってるわ」 「うーん、カノンがはやくジョージと結婚してくれたらなあ」 「えっ!」 「そうしたらカノンはほんとうにわたしのお姉さんになるじゃない!」 「…そうなったら、いいのだけれど」 「そうになるに決まってるわ!」 にっこり笑って言うジニーにわたしの顔は少しだけあつくなった。そんな、ジョージと結婚なんて考えたことなかった。もちろん、そうなればいいなあとは思うけれど。ああだめだ、なんかすごく照れてきた。 「ねえカノン、わたしカノンが作ったミートパイが食べたいわ」 「いいよ、フレッドとジョージからもリクエストされてるの」 「だってあれ、ほんとうにおいしいのよ」 「ありがとう」 とんとん階段を降りきって2人でにこにこ笑ったままキッチンに入ると、未だに芽キャベツの外皮と格闘しているハリーとロンと目が合った。2人はわたしたちを見るなりニヤニヤ笑いはじめるものだから、わたしとジニーはわけがわからなくてお互い顔を見合わせて首をかしげた。 100303 |