「親父みたいな、ほら、マグル好きの変人用さ。儲けはそれほど大きくないけど、かなりの安定商品だ。珍しさが大受けでね…ああ、ジョージだ…」 フレッドに案内されるがまま店の奥に入ると、向かい側からジョージがやってきて、僕ににっこり笑いかけたあとにぎゅっと握手をした。 「案内か?奥に来いよ、ハリー。俺たちの儲け商品ラインがある――万引きは、君、ガリオン金貨より高くつくぞ!」 ジョージが小さな少年に向かってそう警告すると、高い三角の魔女ぼうしをかぶったおんなのこが僕の横をさっと通って、手に持っていたクリップボードでジョージの頭を殴った。ジョージは声にならない叫びをあげてから後頭部をおさえてくるんとおんなのこと向き合った。 「なにするんだ、カノン!」 「言い方が怖いのよ!もうちょっと優しく言えないの!?」 ぷんぷん怒るカノンの頭をなでながら素直に謝るジョージを見ながら隣のフレッドに視線を移すと、フレッドも楽しそうにケラケラ笑ってて思わずこっちまで吹き出してしまった。そんな僕たちを見てカノンとジョージはきょとんとした顔をしていて、ああー、この感じも久しぶりだなあ。 NO LIFE 「ハリー!久しぶり」 「やあカノン、元気かい?」 「ええ、とっても!」 そう言ってにっこり笑うカノンの腰にはジョージの腕がしっかりまわされていて、さっきのやりとりといいどうやらこの2人もあいかわらず仲がよさそうで自然とほっぺたがゆるんだ。ジョージがマグル手品商品の脇のカーテンを引いて4人一緒にその奥に入ると、そこにはフレッド曰くまじめ路線の地味なパッケージの商品が並んでいた。フレッドとジョージが熱心に商品の説明をしている間も、カノンは手持ちのクリックボードに挟んである商品リストらしきものとにらめっこをしていて、へんてこりんな黒いラッパのような形をした『おとり爆弾』がそのうしろに隠れようとしていて少しおかしかった。 「取っとけよ」 カノンのうしろでこそこそしていたおとり爆弾をジョージが掴んで僕に放ってよこした。あわててキャッチしたそれの代金を払おうとしてポケットの中から巾着を出そうとしているとカーテンが開いて、短いブロンド髪の若い魔女がひょこっと顔をだして、僕たちをぐるりと見たあとに軽くため息をついた。 「全員でここにいたら仕事になりません」 「ごめんなさい、ベリティさん」 「あら、カノンはいいのよ。それから店頭にいたお客さまがあなたのことを探していたわ」 「わかりました、いま行きます。それじゃあハリー、また」 「うん、また」 へにゃりと笑ったカノンが(この笑い方も変わってない)カーテンの向こうに消えると、若い魔女(きっとここの従業員なんだろう)は、くるっとフレッドとジョージを見てさっきよりも厳しい口調で言った。 「ミスター・ウィーズリーとミスター・ウィーズリー、お客さまがジョーク鍋を探しています」 「わかった、ベリティ。いま行く」 「カノンと同じような答え方をしないでください」 ぴしゃりと言い放ってカーテンを閉めた魔女を見て、ジョージはいたずらっぽく笑いながら肩をすくめてみせた。ちなみにこれもホグワーツにいた時によく見た動きだ。 「あいつ、俺たちに対してはああなんだ」 「まったく、マクゴナガルってよりもアンジェリーナみたいなやつだぜ」 「アンジェリーナ?」 「ああ、カノンのことがかわいくて仕方ない!ってやつらの比喩表現さ」 接客に向かったジョージのあとからフレッドと一緒に店頭の売り場に戻ると、『特許・白昼夢呪文』を見ながらうれしそうにカノンと話すハーマイオニーとジニーと合流して、フレッドの案内で窓のそばのやたらピンクピンクした『ワンダーウィッチ』製品の棚の方に移動した。フレッドと途中から合流したジョージに彼氏云々を追及されているジニーを少し離れた場所から見ていると、隣にいるカノンが小さくため息をついたあとに頭を抱えて横に振った。 「どうしたの?カノン」 「あーハリー、フレッドとジョージのこと」 「あの2人がどうかした?」 「いくら自分の妹だからって、ジニーの恋愛にあれこれ口をだすのはよくないわ」 「あー、でもほら、ジニーは軽くあしらってるみたいだけど」 「当然よ、ほんとうにシスコンなんだから!」 「カノン!あなたからも2人に言ってやってよ!」 「あーカノン、ご指名みたい」 「とんだとばっちりね」 助けを求めてきたジニーにカノンは笑って肩をすくめてみせた。つられて苦笑すると、商品をどっさり抱えたロンがジョージのすぐそばに現れた。そこからはじまったフレッドのロンいびりを見て、僕とカノンはこっそり顔を見合わせて笑ったあとみんなの方に近づいた。どうか、この時がずっとつづきますように。 101209 |