さん、に、いち

「いらっしゃいませ!ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ悪戯専門店へようこそ!」







NO CALL
NO LIFE








「ありがとうございました」

開店してから1ヶ月、お店は大繁盛。今日最後のお客さまが帰っていったのを確認してから入口の鍵を閉めてウィンドウのカーテンをぜんぶ降ろした。ふと目に入った全身鏡の前でくるんと1回まわってみる。フレッドとジョージから制服として渡されたのはいたって普通の黒のスーツで、胸元には細い赤いリボン、前側にプリーツが2本入ったミニスカート(ベリティさんはタイトスカートである)、ニーハイソックスというこの制服をわたしは少し気に入っていた。ただひとつ納得いかないのが、このつばが広くて背の高い三角の魔女ぼうし。大きな赤いリボンがついたこのぼうしはとてもかわいいのだけれど、これをかぶっているのは従業員の中ではわたしだけで、しかもその被されている理由が「従業員の中でいちばん背が低いから」というのだから気にくわない。そんなの無駄に背の高いフレッドとジョージと、同性からみてもすらっと背の高いベリティさんに囲まれているのだから、わたしがいちばん背が低く見えるのはあたりまえなのである。わたしの身長はぴったり標準だというのに。はあっとため息をついてぼうしを脱ぐと、カウンター奥のカーテンが開いて、スーツのジャケットを腕に掛けてネクタイを緩めているジョージが現れた。ジョージはカウンター上のフリージアの花の角度をちょっといじくって、わたしに気がつくとにっこり笑いながらこっちに歩いてきた。

「おつかれ様、ジョージ」
「うん、カノンもおつかれ」
「ベリティさんは?」
「ついさっき帰ったよ」
「フレッドは?」
「上で注文書と伝票とにらめっこ」
「ふうん」

するするとわたしの髪をすくジョージの手が気持ちよくて目をつむっていると、ふいにおでこにちゅうが降ってきて、びっくりしてジョージを見上げるとくすくす笑われてしまった。

「最近なにかと忙しくて、こういうことしてなかったなあと思って」
「だからっていきなりはびっくりしたよ」
「あれ、いやだった?」
「そうじゃなくて…」

言っててはずかしくなってきて口をもごもごさせながら俯くと、ジョージのわたしの髪をすいていた手が首のうしろにまわって目を合わさせられる。それにわたしがどきどきしている間にも、ジョージのもう片方の手はわたしの腰にまわされて、そのまま身体をジョージの方に引き寄せられてしまった。首のうしろにあったジョージの手はするするほっぺたに移動して、そのまま親指がわたしの唇のはしっこをなぞった。ああー、お店の照明落としたあとでよかった、わたし今、きっと真っ赤な顔してる。

「カノンさん」
「は、い」
「それは聞けばいいってことですよね」
「えっ」
「カノンさん」
「はいっ」
「キスしてもいいですか?」

ふわふわ笑うジョージと言葉に一瞬で頭が真っ白になる。返事をする前にわたしの唇はジョージにぱくんと食べられてしまって、ふわふわする頭のままジョージのシャツをつかむと、たちまち酸素がのみこまれて呼吸ができなくなってしまった。少し苦しくなってきてジョージの胸をぐいぐい押してみても、ジョージが離してくれないというのはわたしもジョージも知っていた。ちょっとおんなのこっぽい抵抗をしてみただけである。ようやっと唇が解放されて、肺に酸素をたくさん送り込むわたしをよそに、にっこり笑ったジョージはまたわたしの髪を指先でくるくるまわして遊んだ。どこまでも余裕そうなジョージが、にくい。

「なあカノン」
「なあに?」
「今日、一緒に寝よっか」
「寝、ないよ、ばか!」
「大丈夫、フレッドは今夜でかけるって」
「そういう問題じゃない!」
「あしたは定休日だし」
「そういう問題でもない!」

いたずらっぽく、ほんとうにかっこよく笑うジョージに、こうやっていくら反論したところで、結局はジョージにうまく丸め込まれてしまうのだろうと思うと少しだけ悔しくなった。照れ隠しも含めてジョージの髪をくしゃくしゃに撫でると、ジョージはまた笑った。


101119


6作目映画でのスーツ双子に激しく萌えました。けしからんもっとやれ。

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