"コンコン"
オープンまであと5日、棚のすみからすみまで商品が並べられた1階はだいぶお店らしくなった。くるくる杖を振って掃除をしているとウィンドウがノックされて、振り返ってみると短いブロンドヘアーの若いおんなのひとがぺこりとおじぎをしていた。







NO CALL
NO LIFE








さっさか動いている箒やはたきの動きをいったん止めて、入口に行って鍵を開ける。ぶわっと入ってきた春の風がおんなのひとの髪と藍色のローブをふわりとゆらした。おお、美人さんだ。

「なんでしょう?」
「私はベリティと申します、求人広告にあったWWWとはここでよろしかったですか?」

そう言ってベリティさんがローブの中から取り出したのはあのきらきら光る求人広告で、いきなりのことにわたしは口をぽかんと開けたままベリティさんのことを見上げてまばたきを2回した。

「あの、違っていましたか?」

眉を下げて少し心配そうに尋ねるベリティさんにはっとして、急いで彼女を店の中に通して呼び寄せたイスに座ってもらった。

「カノン・ハプシュタインです、広告を見て来てくださったんですよね?」
「ええ、従業員募集とありましたので」
「店長を呼んでくるので少しだけお待ちください」
「わかりました」

ベリティさんはきょろきょろと店内を見回していて、わたしはこっそり篭から抜け出していたパステルグリーンのピグミーパフを篭に戻しつつ、カウンター奥のカーテンを引いて2階につづく階段をのぼった。

「フレッド、ジョージ、お客さん」
「ああ、新聞ならもうとってるからいらないと言ってくれ」
「変な壷も風水も興味がないからとちゃんと断るんだぞ」
「違うよ!ここで働きたいってひとが」
「「それを早く言いなさい」」

フレッドとジョージは目をきらきらさせて読んでいた雑誌を放り投げた。それから3人駆け足で階段を降りていってベリティさんとご対面。ベリティさんはフレッドとジョージを交互に見て目をぱちぱちさせていたけれど、そんなのお構い無しにフレッドは人数分のイスと紅茶を呼び寄せていた。キッチンからやってきた熱いミルクティーをゆっくり飲みながらちらっとフレッドとジョージを見る。もしかして、面接とかするのかな。そういえば採用する基準とか方法とかまったく決めてなかったなあと思ってジョージを見ると、おんなじことを考えていたのかぽかんとした顔でわたしを見ていた。このあとどうするの?わかんない、まったく決めてなかった。だよねえ。フレッドに任せようか。そうしよう。ジョージとアイコンタクトでそう結論付けたあとにフレッドの方を見るとあいかわらずフレッドもベリティさんも無言で。あああなんだかわたしの方が緊張してきた!わたしが勝手にどきどきしているとフレッドはベリティさんがミルクティーに口をつけたのを確認したあとにやっと口を開いた。

「お名前は?」
「ベリティと申します」
「よしベリティ、今日からきみはここの従業員だ!」

両手を広げてそう言うフレッドに、わたしとジョージは盛大に吹き出した。ちょ、今までの緊張感なんだったの!目をぱちぱちさせながらフレッドを見ると、にっこり笑ってウインクをひとつ飛ばしてくる。お礼を言うベリティさんに仕事内容を話すフレッドを横目にジョージの方を向くと、ジョージも苦笑しながらわたしの頭をぽんぽんたたいた。

「では、失礼します」

ぺこりとおじぎをして店を出ていくベリティさんを見送ったあとにフレッドを見ると、にっこり笑いながら杖を振ってイスをもとの位置に戻していた。

「なあ、フレッド」
「ん?」
「あんなに軽く採用してよかったのか?」

『ずる休みスナックボックス』が並ぶ棚の整理をしていたジョージが眉をひそめてそう言うと、フレッドは一瞬きょとんとしたあとにはにかんで笑った。

「大丈夫だ、彼女はきっといい従業員になる。それに俺たちには彼女みたいなひとが必要だ」
「どうして?」

くるくる杖を振って箒とはたきの動きを再開させながら聞くと、フレッドは「あー」とか「うー」とか言ったあとに苦笑した。あれ、デジャヴ。

「ほら、俺とジョージは適当だったり悪戯がいきすぎたりするところがあるし、カノンはそんな俺たちに対して甘いところがあるだろ?」
「うん、それで?」
「だから俺たちにはブレーキになるような、少し厳しいような、注意してくれるにんげんが必要だ」
「…つまり?」
「つまり…まあ、あれだ。彼女の雰囲気はマクゴナガルに似ていた」

「言ってしまった」といわんばかりのため息をついてカウンター奥のカーテン裏に消えたフレッドを見て、わたしとジョージはお互いに顔を見合わせたあとににっこりわらった。


101119

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