あの空を飛べたなら。

「空って広いよね」

「いきなりなんだよ」

んーっ、と少女は空に向かって背伸びをする。
隣で背の高い、煉瓦色の髪をした青年の呆れた声が聞こえた。

「ほら、今日はお天気もいいし空とか飛べたらいいよねって話」

人差し指をぴっと青年、ジェットに向ける少女。
その言葉を聞いてジェットはキョトンとした顔をみせる。

「は?お前、俺が空に連れてってやるって言っても嫌がるじゃねえか」

「う…、だ、だってさぁ」

少女の笑顔がひきつり、下を向いてしまった。

「私…高いところが怖いから…」

「はぁ!?なんでだよ」

「小さい時に…」

「時に?」







「滑り台で友達とあり地獄やってたら外側に放り出されてさぁ…」

「お前どんだけやんちゃだったんだよっ!てかアリジゴクってなんだ?」

「そういう遊びがあるのよ日本には」

あと、さ…。といきなりモジモジとしだす少女。
その様子にジェットは首をかしげる。

「何だ?」

「ほ、ほら体がくっつくじゃん…?恥ずかしいし、さ…」


次第に赤くなっていく少女の頬。まるで熟した林檎だ。
するとジェットは悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべる。

「それなら、そのトラウマ全部俺がなんとかしてやるよ」

そんな言葉と共に少女の体がふわり、と宙に浮いた。
それと同時に少女の脳内が真っ白になる。

「ひ、ひぎゃあああああああ!?!?!?」

「うぉ!?何だその声!」

「無理無理無理むり!!降ろして恥ずかしい!怖い!!!」

「落ち着けって!ほら、下見てみろ!」

「だめ、むり」

「無理じゃねえ。怖くねえから!な?」


うー…っと恐る恐る少女が目を開け下を見ると────


「あ、あれ?ちょっとしか浮いてない…」

ジェットの足は地面から数センチしか離れていなかった。
しかし、それ以上に疑問が。

(ジェットの、足…?)

自分の足はどこに行ったとゆっくりと視線を移していくと真正面に自分の足。
少し上を見ればジェットの顔。近い、近い!


「何この状況ーー!?」

「この状態が一番飛びやすいんだって」

「だってお、おひおひお姫様抱っこここここっ!」

「少しずつの方が、いいだろ?」

パニックになっている少女を呆れながらも優しい顔で見守るジェット。
空は快晴。いつかこの空を一緒に飛べたら。




******
素敵企画に参加させていただきました!

- ナノ -