君を今すぐ抱きしめたい
彼女のどこが好きかと質問されたら10個以上言える自信はある。
素直にそれを口に出そうとすると恥ずかしがられるのであまり言わないようにしているが、それでもこの気持ちは抑えられそうにない。
好意の言葉と言うものは伝えた方が良いと思っているのだが…そういう訳でもないのだろう。
態度で見せたいとも思っているんだが、どうも俺は素になると空回りすることが多いみたいで。
抱き締めようとすれば手が震えるし、Kissなどしようとすれば声が裏返り動けなくなる。
演劇部だった学生時代の様に振る舞えればいいのに、どうしても上手くいかなくなるのは演技じゃないからなんだろうか。
……それだけ本気だからなんだろうか。

彼女が風邪をひいた。今日はデートをしたのだが、朝から顔色があまり良くなかったんだ。
今日は帰って休んだ方がいい、と促しても「久しぶりのデートだから」ってどうしても聞かない。
それでも歩く度に辛そうに顔を歪めるのを見ていられなくって、強引に病院へと連れて行った。
診断結果はやはり風邪。医者に安静にするように、と釘を刺される。
薬をもらって帰る途中の彼女の顔は、今にも泣き出しそうだった。

「ごめんねカラ松君……。私がしっかり自己管理していなかったから……」
「お前が謝る必要はないさ。自己管理してたって風邪にかかる時はかかるんだから」

ふらつく身体を支えてやりながら彼女のアパートへと向かう。
自分と違ってこんな小さいんだ。俺が守ってやらねば。
部屋の鍵を開けて中へと上がらせてもらう。
ここに来るのは初めてではない。でも、片手で数えられるくらいしか来てないな……。
手洗いを済ませた後、彼女が着替えている間に俺は台所へと立つ。
そして冷蔵庫を覗けば結構食材が揃っていた。……ちゃんと許可とって開けたぞ?

「着替えたよー」
「お、じゃあとりあえず寝ていてくれ。おかゆ作ってやるから」
「カラ松君料理できるの……?」
「上手いとは決して言えないが……まあ、軽いものくらいはな」

心配そうに覗き込んでくる彼女の頭を軽く撫でてやれば少し腑に落ちない顔をされたが、ふらふらとベッドへと向かっていった。
それを見届け、俺は早速準備に取り掛かる。
おかゆはよく兄弟が熱を出したとき、特に母さんがいない時はよく作るんだ。
これで少しでも、元気を出してくれるといいんだが……。

ベッドに出来立てのおかゆを持っていけば彼女が瞳を輝かす。

「すっごくいい匂い!おかゆなんて自分じゃ作らないからさー」
「俺の愛情もたっぷり入ってるぜ?ちょっと待ってろ」

蓮華で一口掬い、ふぅっと息を吹きかける。火傷するといけないから。
そして、彼女の口元へと運ぶ。

「ほら、あーん」

俺は普通にしていただけのはずなんだが、彼女の顔がもっと赤くなったのがわかった。
えっ、なんで?

「……食べないのか?」
「た、たべる。たべます…………」

あまり呂律が回らないのか舌足らずな言葉になっている。
正直言っていいか、可愛すぎてヤバい。
蓮華に彼女が食いつけばまだ少し熱かったのか、はふはふと口の中で冷ましている。
そして俺の手を握ってきた。

「めっちゃ美味しい!!お母さんのおかゆを思い出すよー!」
「そ、それはよかった……」

握られている手が熱くて、俺の手にも熱がうつる。
さっきまでは普通でいられたのに、なんでこんなに鼓動が早いんだ。
意識すると駄目なのか…?

「カラ松君どうし……あ、近くに寄りすぎると風邪移っちゃうか、ごめんね」

そう離れる彼女の温もりがもっと欲しくて、どんどん自分の中の欲が大きくなっていく感覚がした。

「もう夕方だしそろそろ帰った方がいいよ!カラ松君まで風邪ひいたら大変だし」
「お前はそれでいいのか」

いつもより低い声が出てしまった気がする。びくっと彼女の身体が一瞬跳ねる。

「風邪の時は人恋しくなるって言うだろ?だから今日は看病してやる」
「えっ、いやでも……」
「頼む、俺がしたいんだ」

そう言い大きな瞳をまっすぐ見つめれば、すぐに逸らされた。
その後に小さく動く彼女の唇。

「じゃあ、お願い……しちゃおうかな」
「任せてくれハニー。ちゃんと治ったらまたデートをしよう」

彼女の手を取るとその甲に、一つ口づけを落とした。


この場で抱きしめたらきっと怒られるから、俺も少し我慢しておくよ。

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