手作りのチョコレート


「べ、別にあんたの為じゃないんだからね!」

ずいっと差し出される可愛いラッピングが施されたチョコレート。
それを見て不動は眉間にしわを寄せた。

「なんだその台詞」
「アニメに影響されてみた」
「てかなんでチョコなんだよ」

バレンタインデー。日本では異性にチョコを渡す甘すぎる日。
しかし今日は────

「今夏だぞバカかお前」

そう、今は夏真っ盛り。蝉の声が窓の外から聞こえてくる。
空には入道雲。制服もすっかり夏仕様に変わっていた。

「やだ、せっかく作ったのに貰ってくれないの…?」

よよよ、と泣き真似をする彼女に不動はもう一度そのラッピングを見つめる。
ピンクのリボンがとても似合うトリュフが入っていた。

「俺、甘いもの苦手」
「大丈夫。甘さ控えめにしといたから」
「だから、なんでこの時期にチョコ…溶けンだろ」
「なんか急に作りたくなってさー」

作りすぎた!と彼女はあっはっは、と笑う。
こいつの変に前向きな所はどうにかならんものか。不動は机に頬杖をついた。

「じゃあ、俺じゃなくてもいいじゃん」
「えー。だって一応好きな人に渡したいじゃん。二月だけじゃなくても」

好きな人。そんな単語を聞いてしまったら受け取らざるを得ないではないか。

(天然か狙って言ってんのかわかんねー…)

ひょいっと彼女の手からそれを奪いリボンを解くとチョコを一粒、口に含む。
甘いがどこかほろ苦さを感じるそのチョコはなかなかイケる味だった。

「どーよ。意外と上手くいったっしょー?」
「まぁ、食えなくはないな」

彼女もチョコに手を伸ばしぱくり、と食べる。
嬉しそうな美味しそうな笑顔に不動も思わず笑みをこぼした。

「作りすぎた割には結構少なかったな。全部食ったのか?」
「ンなわけないでしょ!太るわ!!他の人に配ったの!!!」

その言葉にぴしり、と彼は固まる。
自分だけが貰ったもんだと思っていた。恥ずかしい勘違いに気づき不動は机に顔を伏せてしまった。

「なに、自分だけだと思った?残念!配ってましたー!」

ぺちぺちと不動の頭を叩きながら小悪魔が笑う。そんな彼女の手を彼は掴んだ。
そして顔をうずめたまま不機嫌そうな声で「どっかいけバカ野郎」と呟く。
彼女の表情は不動からは見えない。すると彼の肩に彼女の手が置かれた。
なんだ、と顔を上げれば彼女は片手で不動の特徴的なおでこにかかる髪を退けると、そこに小さなキスを一つ。
呆気にとられている彼から離れ彼女はしてやったりな顔で笑った。

「女の子にだけだよ。男の子には明王にしか渡してないよばーか!」

たたた、と走りさる彼女に不動は柄にもなく顔を真っ赤にしてもう一回机に伏せる。
好きだと言われた事とか、キスされた事とか、名前で呼ばれた事だとか。
あいつ絶対確信犯だ、と振り回されている自分が意外と心地いいことに気づいてしまった。
あまりの熱にチョコも溶けていく。それはゆっくりと心を溶かすように。

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