ココアと雪の夜
「ココアってさ、夜に飲むと寝れなくなるんだって」
「コーヒーと一緒か」
「うん。だから今日は寝れない」

炬燵の中で彼と一緒にぬくぬくとする夜。
今日はやたら寒い。炬燵にはみかんが相場だが、炬燵とココアも良いと思う。
だらり、と顎を炬燵に乗せる。暖かくて出たくない。

「あ、ココア無くなった。明王注いできてよ」
「なんでだよ。俺だって寒いんだよ自分で注いでこい」

彼は携帯ゲーム機から目を離す事無く、私の足を蹴る。
私は渋々と暖かいその場から足を出し立ち上がるとひんやりとした空気が私に襲いかかった。

「うわっさむっ!ちょ、明王も出てごらん寒いから!」

ちょっとふざけてみたけれども、彼の瞳はゲームに夢中で私に向くことはない。
しょぼくれながらキッチンでココアを注ぐ。私はミルクたっぷり派だ。
それ故に毎回牛乳を温めなければならなくて、ちょっと面倒。
明王には甘すぎるらしく、私のココアを飲むと歪んだ顔をお披露目してくれる。

それにしても寒い。雪でも降っているんじゃないか?
まぁ、降ってるわけないかと言う心と一握りの期待を込めカーテンを開けてみた。
しかしそこには、まさかの風景が広がっていた。思わずその光景に手が緩む。
そしてその緩んだ手から落ちたマグカップと熱々のココアが私の片足に直撃した。

「いっっっ!?あつぅぅぅぅぅうううう!?!?」

マグカップの割れる音と私の悲鳴に思わず明王が部屋から飛び出す。

「なんだ今の音!?どうした!!」

窓の前で散らばる陶器の破片としゃがみこむ私に彼は急いで近づいてきた。

「あーあ、なにやってんだよ」
「あ、あきお…あのね」
「あ?」
「雪が…降ってるよ……!!」

ぐっ、と親指をたてる私に何言ってんだこいつ。みたいな顔をする明王。
彼はキッチンから袋と保冷剤をタオルで包んだもの、そして一枚のタオルを持ってくると私の靴下を脱がせた。

「足がじんじんする…」
「多分火傷してんだよ。これあてとけ」

ココアのかかった私の足をタオルで拭くと、保冷剤を患部にあてるとあまりの冷たさに私は小さな悲鳴をあげる。

「ひゃっ!」
「おら、ちゃんと持て」

私の手に保冷剤を持たすと明王は割れたマグカップを拾い始めた。

「ごめんね明王…」
「別に。気にしてねぇよ」
「でもゲーム…」
「ちゃんとセーブした」

そういや、と彼は顔をあげる。

「本当に雪降ってんだな」

窓から見える、ちらちらと降ってくる白い粉雪。

「明日積もるかな?」
「こんなんじゃ粉雪じゃ積もらなくね?積もったら遊ぶ気か」
「うん!」
「…そんな足で?」
「……あっ」

忘れてた、と苦笑すると明王は私の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「まったく…ガキだなお前は」

その笑顔が嬉しくて私は思わず彼に抱きつく。
心配してくれて嬉しかったし笑顔も見せてくれたし、雪に感謝せざるを得ない。
……足は痛いけど。

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