心地よさがすべてで
背中を合わせて体重を小さな背中へとかける。
重いよなんて、くすぐったそうに笑って見せるその表情が…なんというか、嫌いじゃない。

「タバコ吸っていい?」
「臭いからやだー」

背中に感じる暖かさが何故か安心させる。
…そういや昔母さんから聞いたことがあるな。

『赤ちゃんはね、背中から聞こえる母親の心音と体温に安心するのよ』

これは赤ん坊に限らず、人類の本能なんだろう。
真正面から抱いてもらえるのも確かに安心する。でも背中というのは安定感があるから余計にそれを感じられるんだ。

「あ、お茶用意するね」

するり、と後ろにあったはずの温もりが離れる。
それと同時に支えを失った俺の身体はゆっくりと床へとダイブ。
彼女の香りがする絨毯にあっという間に包まれてしまった。

「ちょっと一松?ごろごろするならベッドにしなよー。絨毯あっても痛いでしょ」
「いい。お前の匂いがするから」
「おい変態。それならベッドも変わらないでしょうよ」

違うのだ。変態は否定しないけど(男なんてみんな変態だろ)。
ベッドになんか上がったら理性なんか飛んでいってしまうから。
…なんて言い訳をしてみるけど臆病なだけで、俺が。
理性とか欲望とか、そんなものの前にこの手でこいつを汚すのがもったいない…いや、こわい。
こんな関係になって何を言っているのかと思われるだろうけど、まだ無理だごめん。

「ほら一松起きて、お茶だよ」

カラン。氷が入ったグラスを不意に首筋に当てられ「ひょぉあ!?」なんて情けない声が出てしまった。
その声が面白かったらしくグリグリとその冷たい塊を押し付けられ続ける。

「ちょ、ひっ…やめ、冷たいからやめろ!!」
「ちょっと喜んでたくせに」

…否定できない。

「一松は精神的Mなの?肉体的Mなの?」
「精神的Mよりの両方いける派」
「うわーすごいねー」

引きつり笑いをするんじゃないよ。落ち込むし興奮するから。
起き上がって出されたお茶を喉に通せば、少し心が落ち着いた。
にこにこと笑う彼女を見たら、さっきまで考えてた理性云々の事なんでどうでもよくなってしまったよ。
この距離感が心地よすぎるんだ。
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