馬鹿だなぁ




むにり


そんな音が似合いそうな程ななしの頬は引っ張られる。

「ふ、ふほーいはい…っ」

「は、阿呆面」

そう言うと少年、不動は彼女の両頬から手を離した。
ななしは引っ張られていた両頬を撫でると不動をきっ、と睨む。

「なにすんのよ馬鹿ー!」

「んなの気分に決まってるだろ阿呆女」

「阿呆じゃないもん!」

むきー!とななしは怒る。
不動は突飛な行動が多い。
今回もそうだ。後ろ姿を見つけて声をかけたらいきなり頬を掴まれ伸ばされた。
#name#にしたら傍迷惑な話である。

「怒ると可愛くねえ顔が余計に不細工になるぜ?ななしチャンよぉ」

「う、ううううるさい!可愛くないのは元からですーっだ!」

んべー、と舌を出しそっぽを向く。
そんなななしの行動が面白かったのか不動はにやり、と不穏な笑みを浮かべると#name#の腕を引っ張った。

「わっ!」

引っ張られれば必然的にななしは不動に寄りかかる形になる。
何、と見上げれば翡翠色の瞳。吐息を間近に感じる距離だ。
いきなりの事にななしは顔を赤くし離れようとするが、腰にまわった男を思わせる自分より大きな手がそれを許さない。

「な、なにし…っ」

「……」

不動は言葉を発しない。しかし笑みはそのままで顔が近づいてくる。

キスされる。

ななしは直感的にそう思った。
だが不動とななしは恋人同士ではない。ただの腐れ縁のようなものだ。
そんな男にキスされるなんて。ななしは混乱したまま目をぎゅっと閉じた。


――――が、口には何の感触も襲ってこない。
変わりに額に柔らかいものを押し付けられた。
不動は顔を離す。ななしはぽかん、と口を開けたまま固まってしまった。
それを不動は楽しそうにクツクツと笑う。

「何?口にされると思ったわけ?」

「……っ」

未だに笑う不動の頬に綺麗な紅葉が作られるのは数十秒後。



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タイトルは「ひよこ屋」様より

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