オレンジ色の時間帯
時は放課後。部活も終わり鬼道は帰ろうと校内を歩いていた。
しかし、あるものが目に飛び込んでくる。
大きな木の下にある一つのベンチ。そこに見知った顔が座っていた。
────否、眠っている。
鬼道は目を見開き眠っている少女へと近づく。
この少女はクラスメイトなだけででそれ以上のことは知らない。
だがもう夕暮れ。流石に風も涼しくなってきている。
起こさなくては、と鬼道は少女の肩を揺すった。
「おい、もう夕方だ。こんな所で寝ていたら風邪をひくぞ」
それでも少女は起きる気配を見せない。
このまま帰ってしまうのも何故か心苦しく、鬼道は溜息を一つ吐くと少女の隣に座った。
そして寒いだろうと自分の制服の上着をかける。
沈黙
風の音だけが過ぎていく。
ふと彼女の手元を見てみると一冊の本。
活字で埋め尽くされたその間に挟まっている可愛らしい栞。
そういえば、よく教室でも本を読んでいたのを思い出した。
すると目線は彼女の顔へと向かう。
(意外と睫毛が長い、な)
閉ざされた瞼を見つめればそんな考えが浮かぶ。
そして自分は何を考えているのだ、と顔を逸らした。
少しでも相手を『女』として意識してしまった自分を鬼道は恥ずかしく思った。
だって、自分達はただのクラスメイトなのだから。
「んぅ………?」
そんな声が隣から聴こえてきて鬼道は振り向く。
少女が薄っすらと瞳を開けていた。どうやら起きたらしい、寝ぼけてはいるが。
「あ、れ?鬼道くん……?」
「おはよう。もう夕方だが」
目を擦りながら彼女が問えばなるべく平常を保とうと鬼道がそっけなく答える。
しかし、彼女は気にしなかったようで自分にかけられている制服へと手を伸ばした。
「あ、ありがとう鬼道君。でも、どうして鬼道君がここに?」
「帰ろうとしたらお前が寝ているのが見えてな。起こしたんだが起きなかったんだ」
「そうだったんだ…ごめんね鬼道君」
ふにゃり、と彼女が笑う。
それは、まるでひだまりのような笑顔で鬼道は思わず見とれてしまった。
「どうしたの鬼道君?」
「い、いやなんでもない…」
慌てて目を逸らすと鬼道は立ち上がり手を差し伸べた。
「もう暗い。送っていこう」
「え!いいよっそこまでしてくれなくて…」
「いいんだ。この時間、女子の一人歩きは危険だ」
夕焼けのせいか、鬼道の頬が少し赤みを帯びているように見える。
少女は目をぱちくり、とさせるとまたあの笑顔で鬼道の手をとった。
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タイトルは「ひよこ屋」様より