りんごほっぺ


顔に感情がすぐに出る。
これは忍びにとってあってはならない事だ。
しかし、少女は悩んでいた。
あがり症の為か、頬がすぐに紅くなってしまうのだ。

ななしはくのたまの体育委員。
四年生だが、この紅くなる頬のせいで落ちこぼれに近かった。
運動も勉強も並みなのだが実習が上手くいかない。
特に色の授業では彼女の頬は林檎より紅くなる。
山本シナ先生に度々注意はされるが、治すのは中々困難だ。

今日も今日とて体育委員はバレーボール。
委員長の七松小平太に無理矢理付き合わされる訳だが、ななしは別に嫌とは思わなかった。
この気持ちはなんだろうか。どきどきしてそわそわする。
くのたま達の言う「恋」というものなのか。
こういうことには疎いななしは首を傾げてしまう。

「いけどんアターック!!」

小平太の鋭いスパイクが風のようにななしを横切り、茂みへと転がってしまった。

「ぼーっとしてると危ないぞななし」

滝夜叉丸が呆れ顔でななしの頭をこつん、と叩く。

「ご、ごめんなさい…っ」

かぁぁ、と紅くなる頬。別に変な事をされた訳ではないのに恥ずかしさからかその頬は勝手に染まってしまった。

「おーい!何してるんだななし!ボールを取りにいくぞ!!」

前から勢いよく小平太が走ってくるとななしの首根っこを掴むようにして掻っ攫っていく。
あまりの速さに下級生と滝夜叉丸は呆然と二人が去っていった方向を見つめていた。



「ボールはどこだ!」

「せ、先輩…あの……」

「お?ボール見つかったか?」

「いやあの…あまり首根っこを掴まれると、制服が乱れて……」

恥ずかしいです…と消え入りそうな声でななしは呟く。
そこで小平太はやっとななしの方を振り向いた。
その姿は首根っこを引っ張りすぎて制服の前と肩が肌蹴た状態の後輩。
そして涙目で顔は真っ赤だ。

「あー!すまんすまん!!つい掴みやすくてな」

「掴みやすいとかやめてくださいよもう……」

小平太が手を離すと制服の襟元を直すななし。
するといきなり小平太がななしの顔を覗き込んできた。

「ひゃっ!な、なんですか…?」

「いつも思うんだが、お前顔が林檎みたいだよな」

「あ、紅いってことですか……」

「そうだ。くのたまじゃあ色々大変だろう」

さすが六年生だ。
ななしの弱点をすぐに見抜いてしまった。
少女は自分の頬に手を添えると俯いた。

「…私、小さい頃からすぐに顔が紅くなってしまって……中々治らないんです」

「ふむ…例えばどんな時に紅くなる?」

「えーっと、男性に触れた時など…くの一として失格ですよね」

泣きそうな顔でななしは笑った。
するとずっと何かを考え込んでいた小平太が何か思いついた様にななしの手を掴む。

「わかった!」

「え、あの……」

「私がずっと手を握っていてやろう!!」

「な、なんで?」

「ずっと手を握っていればいつかはあがり症も治るだろう!」

なっ?と明るい笑顔。
胸が高鳴って頬がより一層熱くなった。

「よけいに…悪化しそうです……」

「なんでだ?」

「な、なんでもないです!それよりボール、捜しましょう?」

「おう!じゃあ私について来いななし!!」

「え、ええ、あの先輩足速いか…うええええええ!?」

ずっと繋がれたままの手のひら。
熱くて溶けそうで、頬の色も熟した林檎のようになっていた。
でも今はそれでもいいか、と少し思うななし。
紅ければずっと先輩と手を繋いでいられるのだから。

(冷めないで、私の熱)





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タイトルは「ひよこ屋」様より

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