夏色
あっちこちから色々な声がする
「みーんみんとかじりじりとかつくつくとかうるさいねぇ」
「だって夏だし」
仕事中のきり丸の元へ少女、もといななしがやってきた。
小さな手に似合わない大きな荷物を持ちながら。
「で、何しにきたんだ?おれ忙しいんだけど」
「ふっふっふー!そんな忙しいきり丸の為に差し入れだぁ!!」
じゃーん!とななしが風呂敷を開ければ大きな西瓜。
思わずきり丸の顔が明るくなった。
「まじで!?…あ、まさか銭取るつもりじゃなだろうなぁ?」
あまりにも西瓜が立派過ぎてじとーっと少女の顔を見る。
するとななしは頬を膨らませ「失礼な」とそっぽを向いた。
「そんなこと言うなら一口もあげませーん!」
後ろを向いて歩き出そうとするななしをきり丸は慌てて止める。
「悪かった!おれが悪かったから行くな!!」
「えー、もうしょうがないなー」
振り返った時のななしの顔は悔しいほどに笑顔できり丸は罰の悪そうな顔をした。
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「んー!美味しいね!」
「差し入れなのに切るのはおれなんだな…」
西瓜を頬張るななしとぐったりした表情のきり丸。二人の手には食べやすい大きさの西瓜。
うるさい蝉の声が鳴り響く中、二人は無言で西瓜をかじる。
ふとななしがきり丸を見つめると「んだよ」と返ってきた。
「ばいと、大変?」
「ん?んー、まぁ慣れたからそうでもないかな」
「そっか」
ななしは西瓜に視線を戻すと何か考え出した
その様子を不思議に思ったきり丸は少女の顔を覗き込もうとすると。ななしがばっ、と顔をあげたので驚いて体を引いた。
「あのねきり丸!」
「な、なんだよ」
「私、これからも差し入れにくるから!」
「あ、え、うん?」
「だから!」
傍に居ていいですか?
ななしがあまりにも真剣に言うものだから、思わずきり丸は一瞬呆気に取られたような顔をしたがすぐ照れくさそうに顔を逸らした。
「別に、邪魔しないならいいけど」
その言葉にななしの顔が綻ぶ
食べかけの西瓜と蝉の音が余計に暑く感じた