しあわせなままでいるのにはどうしたらよかったんだろう



意識を失った彼女を横抱きで持ち上げ、実験台の上に寝かせる。
なぜ彼女に意識が無いのかと問われれば簡単な事だ。
僕が睡眠剤と麻酔をかけたから。

ずっと前から見ていた。誰にでも振りまく彼女の笑顔を、仕草を。
いつからだろう、それがとても羨ましく思い始めたのは。
彼女はとても眩しくて、それはどんなに天才と豪語する僕でも正直、憧れた。

だから彼女を解剖すれば何かがわかると思った、思ったはずなのに────。

僕はメスを手に取るとゆっくりと彼女の柔い肌に刃先を近づける。
ぷつり、と肌が切れる音。そして流れ出す紅い血。
普段はメカばかりに触れている自分にはこの柔らかさはとても、不思議だった。

メスを進め、そこから見えるものは大量の血と彼女の内臓。
思わず生唾を飲み込んだ。
そしてはっ、と頭が冷静になる。それと同時に襲ってきたのは少しの恐怖と血の臭い。

「僕は…なんで、こんなもの…っを見てしまったんだろう……」

急いで実験台を見ると息はあるものの、彼女は動かなくなっていた。
しかし、よく聞いてみると彼女が何か口を動かしている。だが声は、ない。

何を言っているのか正直わからなかった。もう止めようと自分でも思った。
それでも僕の手は止まらない。

もうここまで来てしまったら進むしかなかったんだ。
不能な感覚が僕に襲い掛かる。慣れてきてしまった、そう思ったんだ。
そして目の前に映し出される彼女の血に塗れた内臓が先程よりも鮮明に見えるようになってしまった。
それを一つ一つ取り出し瓶に詰める。君になりたい。でも、どうしても君には、なれない気がするんだ。

最後に彼女の心臓を取り出す。これでもう彼女は…────

熱中をしている間は感じないが、よく見るとそれはもう殆ど人の形をしていなかった。

「あ、ああぁぁ…っ」

僕は思わず座り込み頭を抱える。自分が望んだ結果なのに。

気がつくと僕は血塗れ。彼女の返り血で弟と同じ色になってしまっている。
よろよろ、と彼女に近づきその手に触れる。
人間特有のぬくもりが無くなった彼女の手はもう、僕の手を握り返してくれない。
いつも笑顔だった彼女の顔はもう二度と笑わない。

ぽろっと僕の瞳から一粒の涙が零れ落ちた。
泣いたって何もならないことは知っているのに。それは誰にも見られることの無いすみっこの時間。

そして僕の意識は途切れる。
次に目覚めた時には自分の実験台に寝かされていたのだ。
カチャリ、という音が聞こえその方向へ目線を移すと彼女がメスをとって此方を見ていた。
僕の頭は軽いパニックに陥る。だってあの時彼女…いやななしは死んでしまったはず。
色々問いたいが身体が痺れて動かない。…麻酔のせいである。
僕は必死に言葉をひねり出し、弱々しく言い放った。


「僕は君の────」



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BGM:サイノウサンプラー/電ポルP feat.初音ミク

タイトルは「ひよこ屋」様より
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