これは愛ですか



彼女のイヤフォンから愛を語る唄が聴こえた。
その片方をドナテロは貸してもらい二人並んで座る。

明け方のNYは静かだ。そして空は少しずつ色を変えていく。

「群青、みたいだよねえ」

彼女、ななしがそういうとドナテロは首を傾げた。

「そうかなあ…もうすこし明るくない?」

「なんか海っていうか宇宙っていうか…飲み込まれそうな感じ」

一理あるかもしれない、しかしなぜか納得がいかないドナテロ。
そもそも海、いや宇宙は……

「ドーナーテーロー!思考がトリップしてるよ!」

こつん、と額を叩かれればはっと理論を組み立てていた脳を解き苦笑した。

「ごめんごめん。今はそういうムードじゃなかったね」

「そうだよ。もっと場の雰囲気とかを考えて……」

彼女がそう言った所で音楽が変わった。
詩の無い、静かな自然の音。

「この音は…水?」

「うん。川のせせらぎー。心が癒されるの」

ほう、と頬を緩め微笑むななし。
ドナテロも普段は下水道の音しか聞かないためか興味があるようだ。

「いいねえこの音。まさに心が洗われるよう、だね」

「お、うまいねドナテロ君。座布団一枚!」

「確か日本のテレビだよね。ザブトン全部持っていって!とかやる」

「なにげに詳しいね」

二人で笑うとななしがその瞳を空へと向けた。
そして静かに口を開く。

「ねえドナテロ」

「ん?」

「もしこの世界が汚れちゃって、ドナテロの大切な物をすべて失くしたとしてもさ…」


こんな日や皆と過ごした日があった事、忘れないでね


その発言にドナテロは驚愕しななしの方を見る。
ななしは左手を空に向かいかざしていた。

「ななし…どうしたんだい、いきなり」

「んー、なんとなく言ってみただけ!」

にひっと笑うななしにわけがわからないと言う顔のドナテロだが、
ななしの横顔はなぜかとても寂しげだった。
ドナテロは口を結ぶと自分の右手を伸ばしその手を掴む。
とても、冷たかった。

耳から聴こえるせせらぎとこの行動にドナテロは気の抜けてしまったソーダ水を飲まされたようだ思う。
甘ったるくてやるせないこの気持ちはきっと答えは出ないのだろうと考えた。









そしてドナテロは未来へと飛ばされてしまった。
師匠や友達の姿はなくなり、兄弟や姉のようにしたっていたエイプリルでさえ変わってしまった。
そして────

「…ねえ、ななしは……?」

その言葉に皆は一斉に口を噤む。
なんだこの空気は。嫌だ、とても嫌な予感がする。

「……悪いドナテロ」

サングラスの奥の目を細めレオナルドがドナテロの肩を叩く。
ラファエロが悔しそうに、悲しそうに歯を食いしばった。

「ななしを、守りきれなかった……っ」

ミケランジェロが静かに目を瞑る。
エイプリルは出そうになる涙を堪えていた。

「…そんな、嘘だ……だってななしは………」

あんなに笑顔だったのに。
あんなに隣で話していたのに。
冷たい手の感触も覚えているのに────

ドナテロは戦った。兄弟達と共に。
心は大切な兄弟達や師匠と、大切だった…いや今も大切なななしの為に。
そしてすべての決着がつく。
もう、エイプリルしか自分を見てくれる人はいなくなってしまった。

「あぁ、ななし。君が言っていたのはこの事だったんだね……」

あの日のななしが言った言葉が胸に響く。
ドナテロは何も無い虚空に右手を伸ばす。

「この光の向こうに君がいるなら僕は伝えたい」

「    」

ドナテロの体が消えゆく。それは夢から現に変わる感覚。
その時、ずっと遠くから差しこむ眩い光の中に影が見えた。


懐かしくなんか無い、どこかで見たような君の影が





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BGM「千切れる群青」by.TaNaBaTa(あにー)

タイトルは「ひよこ屋」様より
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