転がり落ちる、それは



「もしも転がり続けられたら、私は止まる事はないよ」

夜のNY。長い階段の一番上には髪を靡かせた少女、ななしと紫の鉢巻をたなびかせる亀ドナテロの姿があった。
暗い、まるで闇へと続いているような階段の先で彼女はそう呟いた。

「だったら僕が止めるさ」

命に代えてもね。とドナテロは静かに笑みを浮かべる。
ななしはゆっくりと彼の方を向くと瞼を閉じた。

「優しいのね、ドナテロ」

「僕は優しくなんかないさ。ただの自己満足」

ドナテロが肩を竦めてみせるとななしの瞳が開かれる。
ななしの瞳も綺麗な闇色。それは吸い込まれそうな、黒。

「君は今日も転がるのかい?」

「ええ。だって転がるしかないの」

「その行動に意味は?」

「自己満足」

悪戯っぽく少女が笑う。一本取られた、とドナテロも苦笑した。
少女の顔には複数の絆創膏。どれも自分のためにつけた傷跡。

「でもそれ以上転がったらその可愛い顔にもっと傷がついてしまうよ」

「問題ないわ。だってまだ先は見えないの。答えが見つかるまで私は落ち続けるわ」

そう言うとななしの身体が前へと傾く。少女は瞳を強く閉じた。



────が、痛みが一向に襲ってこない。自分の腹部をみると緑色の手。
後ろからドナテロがななしを抱きしめている。

「……離して」

「嫌だって言ったら」

「蹴るわ」

「それは怖いね」

睨みつけるななしをドナテロはより一層強く抱きしめた。

「間違ってるとは言わない。でも僕は傷ついていく君を見るのは嫌だ」

「それも自己満足?」

「これは本心だよ」

「な、んで……」

「ねぇ、もう疲れたろう?」

一回休んだっていいじゃないか。永遠の一回休みでも。

ななしの大きな瞳から大粒の涙があふれだす。

「意味は、なくないよ…」

「うん」

「いつか見つけられるって、信じ…て……」

「うん」

「もう、止まって、も…いい、の……?」

「…もう、いいよ」

ななしは大きく息を吸い込む。そして後ろへと重心をかけた。
ゆっくりと二人は倒れるように座りこみ夜空を見上げる。

「ほら、少し汚れてしまっているけど綺麗な星だ。闇なんかじゃないよ」

少女は静かに頷き腹部にある手に自分の手を重ねた。

もう、一人じゃなかった。




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BGM「ローリンガール」by:wowaka
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