I'm with you

「…何してんだ?」

「ひっ!?」

自分家の玄関の前に見知った顔が立っていた。

「な、流!驚かせないでよ!!」

「驚かせるも何もここ、俺ん家なんだけどなぁ」

俺は少し頭を掻く。

「知ってるわよ!だから来たんじゃない!!」

「お前、近所迷惑だぞ?今は夜中。」

「あっ」

慌てて自分の口を塞ぐ女。
こいつの名はななし。光覇明宗の同僚だ。

「しっかし、なんでこんな夜中に俺ん家にくるんだ?しかも女一人で男の家にくるなんて、大胆だな」

俺はわざとらしく笑うと、ななしは顔を赤くさせながら怒鳴ってきた。

「な、何言ってんのよバカ流!そんなんじゃないんだってば!!」

「だからお前少し声のトーン下げろって」

「! あんたがさせたんじゃない…!」

小声になったななしを見て、いつも通りだな、と思った。
顔は可愛いのに態度が可愛くねぇ。
ま、それがこいつのイイ所でもあるんだがな。

「とりあえず中に入れよ。事情は中で聞く」

「…ありがとう」

ふいっ、と顔を背けながら言うななし。まったく、素直じゃねぇな。




++++++++++



パチッと電気をつけると、いつも通りの風景が目の前に広がる。
いつもと一つ違う所はななしが居るという事だけ。

「とりあえずそこら辺に座っててくれ。茶ァいれてくる」

「手伝う?」

「んにゃ、平気だ」

麦茶しかねぇな、と思いながら冷蔵庫からペットボトルを取り出しコップを二つ指に挟み持っていく。

「ほらよ」

「ん。ありがと」

コップに麦茶をいれ、ななしに渡す。それを口に含むとななしは溜め息に似たものを吐き出した。

「で、なんでこんな時間に俺ん家に来たんだ?」

俺がそう聞くと、ななしは少し気まずそうな顔しながら小さな声で

「…私の家の電気が、きれた」

「………はぁ?」

「だから!電気がきれたの!!」

多分今、俺は凄く間抜けな顔をしているだろう。自分でも大体想像はつく。

「お前…、そんな事でわざわざ俺ん家まで来たのか……?」

「私にとっては死活問題なのよ!!」

「だから怒鳴るなっての」

うー…っ、と俺を睨みながら唸るななし。お前は小動物か。

「お前、暗い所駄目なのか?」

するとななしは小さく頷いた。

「暗い所が駄目でよく光覇明宗にいられるな」

麦茶を飲みながら俺が言うと、ななしの表情が少し曇る。

「……私の家、代々こういう家系だし私だってこういう力持ってるから…。」

確かにこいつはかなりの力を持っている。特に結界を張る事に関しては日輪と並ぶだろう。

「…お前はそれでいいのか?」

「……え?」

「だから、お前はそれでいいのかって聞いてんだ。血筋なんか関係ねぇだろ。力を持ってたって。お前は、どうなんだ?」

「………」

ななしは段々泣きそうな顔をしてきた。俺は次のの言葉を待っている。

「わ、私…本当は、なりたくなかった…。妖怪、なんて怖いし…こ、こんな力も本当は、欲しく、なんか…っ」

ななしの目から涙がこぼれ落ちる。俺は、こいつの頭を撫でた。

「お前、ずっと怖かったんだろ?妖怪も、力を持っている自分も」

ななしの身体がビクっ、と大きく揺れる。


普通に見えないものが見える

普通に使えない力が使える


たったこれだけで人間は、俺らみたいな奴を同じ人間だとは思わなくなる。
それに怯える奴がいたって不思議ではない。
どんなに他と違かろうと、人間には変わりないから。

「ななし。そんなに嫌ならやめちまえ」

ななしは真っ赤に腫れた目で俺を見る。

「何が起きても、お前の事守ってやるからよ」

我ながらクサい台詞だと思った。でも、これは本当の事だから恥ずかしくなんか、ない。
一方、ななしの顔は真っ赤になった。そしてまた止まった筈の涙が溢れてきていた。
あぁ、この感情が『愛しい』ということなのか?よくわからないが。

泣き続けるななしを抱き締めた。こいつ、こんなに小さかったんだな…。

「暗い、所だって…小さい頃、妖怪に襲われ…っ。」

「…そうか」

そりゃ怖いわな。トラウマなんてすぐに消えるもんでもないし。
ななしは一晩中泣き続けた。
俺はそんなこいつをずっと抱き締めていた。



誰にだって朝はちゃんとくる


だから大丈夫だ


一人じゃなくて



二人になったんだからな


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