澄んだ夜
今日はクリスマスらしいが、俺には関係ない。いつも通りにバイクに跨り走っていた。どこに行くわけでもなく。

すると、近くで見覚えのある後姿が見えたもんだから思わず立ち止まった。

「ななしか?」

「え?あ、流!何よ、どこに行ってたのよ!?」

そう言いながら俺に近づいてくるこの女はななし。俺と同じ光覇明宗の一人で俺ほどでは無いが中々強い。

「てか、俺がどこに行こうがお前には関係ねぇだろ」

「違うわよ。今回は皆でクリスマスパーティをやろうと思ったの」

ほら、と両手にある買い物袋を見せるななし。あぁ、なるほどな。

「つまり、くじで買出しになったと」

「な、何でわかるのよ!?」

だって顔にかいてあるから。なんていったらコイツぜってぇ怒る。

「お前の他に誰が居るんだ?」

「えっと…、日輪と純と悟!」

「…少ないな」

「だって、これぐらいしかノってくれる人いないもん。日輪は強制参加」

……同情するわ日輪。

「だから流も呼ぼうと思ってたのに居ないんだもの」

「そういう訳か。残念だが俺は参加しねぇ」

「えー」

「その代わり…」

ポン、とヘルメットをななしに投げる。すると、両手がふさがっていた為慌てて袋の紐を腕に通すと、ヘルメットを受け取った。

「送ってやるよ」

「…いいの?」

「いいっていいって。いくらお前でもそれは重いだろ。んで、どこに行くんだ?」

「あ、私の家」

「よし、じゃあ乗れ」

「あ…ありがとう」

「まぁ、お前とじゃ色気もクソもないがな」

「失礼な!」

まったく…、とかぶつくさ言いながらバイクにまたがるななし。荷物は、抱きしめるようにしたらしい(荷物は一つにまとめた)

「しっかり捕まってないと振り落とすからなー?」

「怖いこと言わないでよ…」

「よし、じゃあ行くぞ」

俺はバイクを走らせた。




何故だろう、いつも以上に風が気持ちいいのは。とか考えちまった、らしくねぇなぁ。

「おーい。まだ生き残ってるかー?」

「な、ななな何か言ったー?!」

捕まるので必死らしい。しかも結構早いから音が聞き取りにくい。

「ねぇー!流ー!!」

「何だー?」

「ち、ちょっと早くなーい!?」

「あー…、きこえねぇ」

…ちょっと意地悪をしたくなったからわざとスピードを上げてみた。

「きゃあ!今の絶対に聞こえてたでしょー!!」

「さぁ、しらねぇー」

コイツ、からかうとおもしれぇ。
でも、あまりやりすぎると少し可哀想な気もしたので、遅くしてやる。

すると、俺の腰に抱きついているななしの腕の力が少し強くなったような気がした。

「流…」

「なんだぁ?」

「あんた、どこにも行かないわよね…?」

いつもの強気な態度と違う、弱々しいななしの声。

「はっ、何だよいきなり。」

「だって、あんた…いつも飄々としてるから。いきなり来ていきなり去っていく風みたいな奴だから、だから…」



いつか、消えちゃうんじゃないかと思うの…



小さい声だったが俺にははっきり聞こえた。そうこうしてるうちにななしの家の前に到着する。

「ほれ、着いたぞ」
ヘルメットをはずす俺とななし。しかし、ななしの顔は曇っていた。だから頭を撫でてやった。

「ひゃ!何すんの!!」

「お前は気にし過ぎなんだよ。俺は今、ここにいるだろ?」

そういってやるとななしは少し安心したらしく微笑んだ。

「じゃ、俺は行くわ」

「あ、待って!」

そういうとななしはポケットから何かを取り出した。

「…カイロ?」

「そう。結構暖かいのよ?流にあげる」

クリスマスプレゼントー!と笑うななしが不覚にも綺麗だとか思ってしまった。

「ま、もらっておくわ」

「うん。じゃあね、メリークリスマス!」

そう思った自分が少し悔しかったので手を振るななしの方を向いて言ってやる。

「ななし、お前意外といい女だ!」

「は、はぁ!?」

「じゃあなー」


そう言いバイクを走らせる俺。
絶対アイツ今頃真っ赤だな、とか思うと自然と笑みが零れた。
ななしから貰ったカイロはポケットにしまってあるが、少し生ぬるい。

そして、空気はとても澄んでいた。


ななしの笑顔のように────

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