It was natural
ジョーから他の仲間の話を聞いて、綾菜は嬉しくて仕方がなかった。
早く会いたいという気持ちと裏腹に浮かぶ疑問。

何故、自分はここにいるのだろう。

出会ったばかりなのに、ここまで良くしてくれた
もしかしたら自分は敵かもしれないのになんでここまで…。





-コ……、セ……ハカ……イ……-





「っ!?」


綾菜の頭の中に声が響いた。イワンとは違う、低い声と自分と似た声。
それと同時に頭に鋭い痛みが走る。

「…綾菜?」

「え?あ、何でも無いよ!」

えへへ、と笑いながら誤魔化した。
痛みも、声も、フワンソワーズの優しさも。

「えっと、その仲間達は明後日に来るんだよね?」

「そうだよ。皆個性的だけど、いい人達だから安心して大丈夫」

「皆に会うのも久しぶりね。楽しみだわ」

懐かしむように微笑むジョーやフランソワーズを見て、綾菜はさっきの頭痛も和らいでいた。
必死に忘れようとしたのだ。気のせいだと思い込もうと、でないとまた昔みたいに────



+++++++++++++++


数日後、ちょうど皆の都合が合うこの日。綾菜は朝からそわそわしていた。

「あら、ご機嫌ね綾菜」

「うん!だってフランソワーズ達がよく話してくれる人たちと会えるんだもん!」

嬉しそうに笑う綾菜。しかしその反面、心の中は不安でいっぱいで。

(受け入れて、もらえるのかな…?)

ジョー達は自分の事を暖かく迎えて入れてくれた。でも、その人たちも自分を受け入れてくれるかはわからない。
怖いのだ、人から嫌われるのが。

「じゃあ私、自分の部屋に行ってるね!」

「わかったわ。みんな来たら呼ぶからね」

「はーい!」

元気に返事をすると綾菜は割り当てられた自室の方にパタパタと走っていった。






+++++++++++++


「やぁ久しぶり」

「…久しぶりだな」

「いやはや。少し道は混んでたが早く来れてよかったよかった」

「まったくアル。でも早く来れたコトに越したことはないネ」


「わぁ!皆、久しぶり!」

初めに着いたのはピュンマ、ジェロニモ、グレート、張々湖。
そして、その面子を迎えたジョーは嬉しそうに笑った。

「ジェットとハインリヒは少し遅れるみたいだよ」

コートを脱ぎながらピュンマがジョーに告げる。

「そうなんだ…。じゃあ綾菜はまだ呼ばなくていいか」

「ジョー。その綾菜っていうお嬢さんは可愛いのかい?」

グレートが少しニヤつきながらジョーに問いかけた。
話を聞いてから気になっていたらしい。

「うーん…そうだね。可愛らしいと思う」

ジョーがまず思い出したのは元気に走り回ってお皿を割っている綾菜の姿だったので、思わず答えが曖昧になってしまう。
普通という言葉がとても似合う女の子だよ、と付け足しておいた。

「よーし!じゃあ今日はいつもより豪華なモン作るヨー!皆、期待するヨロシ!」

いつの間にか着替えていた張々湖はキッチンへと消えていく。
ジェロニモは椅子に腰掛けていた。長旅で少し疲れたようだ。
フランソワーズがジョーの隣に来るとおかしそうに笑う。

「何だかんだ言ってみんな変わってないわよね」

「本当にね。でもまぁいいんじゃないかな。その方が綾菜も話しやすいだろうし」

そして、二人顔を合わせるとクスっと笑みをこぼした。



一方、綾菜も部屋の中でベッドに腰掛けながら耳を澄ましている。

(あぁ、早くみんなに会ってみたい!)

仲間が増えると思うと嬉しくて仕方ない。

(でも、あと二人来てないっていうから我慢がまん…)

部屋の中で一人悶々していた。



軽いチャイムの音が響く。フランソワーズがドアを開けるとそこには───

「ジェット、ハインリヒ!久しぶりね!」

「あぁ、久しぶりだなフランソワーズ」

「まったく…。道が混んでる混んでる。お陰で足止め食らっちまった」

「お疲れ様二人とも」

ジョーもやってきてジェット達の荷物を受け取る。
リビングへ進むともうみんなが揃っていたことに少し驚く二人。

「なんだよ。俺らが最後かよ」

「仕方ないだろ。道が混んでいたんだから」

悪態をつきながら乱暴にコートを脱ぐジェットにハインリヒは少し呆れた口調で窘める。

「じゃあ皆集まった事だし、綾菜を呼んでくるわ」

嬉しそうに歩き出すフランソワーズだったが、その一方でジェットの表情は険しくなった。

「…待て」

「何?どうしたのジェット」

ジェットの声にフランソワーズは足を止める。

「俺はこの話を聞いたときから妙だと思ってたんだ。なんでわざわざ敵に会わなきゃならない」

「敵じゃないわよ。綾菜はいい子だもの」

「お前らの前じゃ知らないが、ブラックゴーストの元手下に作られた奴なんだろ?なんでそんな奴をここに住まわしてるんだよ!」

ジェットはフランソワーズに怒鳴る。。
あまりにも大きな声だったので、綾菜の部屋にもその声は響き渡った。

「……そうだ、よ。なんで…?」

数日間考えていた事がまだ会ったことの無い人に言い当てられてしまった。
そう言われる事は当たり前だと、思ってたよ。

綾菜は自室の扉を開け歩き出す。

そして、皆のいるリビングにたどり着いた。
いきなりの綾菜の登場にリビングにいるみんなは驚いた顔をしている。
そして、なにより驚いたのはその容姿。
本当に普通の日本人の女の子。サイボーグにされたなんて感じさせない幼い顔立ちの子だった。
17歳と言われていたからもう少し大人びていると皆は思ったらしい。

そして沈黙が続いた後、綾菜は静かに口を開いた。

「はじめまして。杉久保…綾菜、です」

そう言うと頭を下げる。
皆が何か言おうとする前にジェットが綾菜の前に進み出る。

「お前か…。敵のくせにこの家に図々しく居座ってる奴は」

「うん、そうだよ。貴方のお名前は?」

綾菜は顔を上げると笑った。

「なにヘラヘラ笑ってやがる…!」

しかしその笑顔が癇に障ったらしくジェットは綾菜の胸倉を思いっきり掴んだ。

「ジェット!?やめろ!!」

慌ててジョーが静止に入ったがジェットは止まらない。

「何でお前みたいのがここにいる!お前は敵だろ?こいつらを騙してたんだろ!?俺はお前を仲間だと認めない!絶対にだ!!」

「ジェット!!」

ジョーの他に皆も制止に入り、ジェットは綾菜の胸倉から手をを離す。その反動で綾菜の身体は後ろに傾きしりもちをついてしまった。
慌ててフランソワーズが綾菜の元へ駆け寄る。

「綾菜大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫。慣れてる」

ぽつり、と放った綾菜の言葉にフランソワーズは少し違和感を感じた。
そしてその時の彼女の顔は恐らくフランソワーズにしかわからなかっただろう。


酷く無表情な、何の感情も無いような瞳。


その顔にフランソワーズは綾菜に伸ばしかけた手を止めた。

「とにかく、だ。お前なんかいらない!早くここから出て行け!!出て行かないなら…」

ジェットはそう言うとスーパーガンを綾菜に向ける。

「…っジェット!?」

「俺は本気だ。出ていかねぇなら俺がぶっ壊してやる」

そんなジェットを見て綾菜は頷いた。

「わかった。これ以上皆に迷惑はかけられないもんね」

綾菜はジョーとフランソワーズに、ありがとう。と言って静かに玄関へと向かう。

すると、騒ぎを聞きつけたギルモアがリビングに入ってきた。

「いったいなんの騒ぎかね?」

「博士…」

綾菜はギルモアの方を向くと、深々と頭を下げお礼を言う。

「博士、私の身体を治してくれてありがとうございました。私はもう、大丈夫です」

「な、なんじゃいきなり」

「私は貴方たちの敵です。これ以上一緒にいると傷つけてしまうかもしれない。だから出て行きます」

そういうと頭を上げまた笑顔になった。

「少しの間でしたが楽しかったです。皆、ごめんね」

それだけ言うと扉を開け綾菜は出ていった。
扉は、無慈悲な音をたてるだけ────







ドアから出た綾菜は砂浜へ駆け出していた。
その目からは、大粒の涙が零れている。
いや、サイボーグになってしまったから『涙』ではないかもしれないが、今の綾菜は様々な感情が心の中で複雑に絡み合い、何も考えられなかった。




「お前なんか…」



「ごめんなさい…!」


「あんたなんか生まなければ…」



「ごめん、なさい…!」



「全部お前のせいだ!」



「ご……めな、さ…」



そして立ち止まると綾菜は膝から崩れ落ち、顔を押さえ大声で泣いた。





どうせわたしはだれにもあいされない




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