Gentle friends

『実験は成功だ』


…?


『遂に最強のサイボーグが!』



…さいぼー、ぐ…?



『これで私は第2のブラックゴーストになれる!』



…ぶらっく、



『さぁ、今こそ目覚めよ!最強のサイボーグよ!!そして────』














(!?夢…?)

少女はまだ完全に覚醒していないらしく、虚ろな瞳で天井を見つめた。

(白い、天井。あそこじゃない…)

少女は内心ホッとしたが、身体が動かない。

(まるで体中縛られているみたい…。どうしちゃったんだろう私)

頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも動かないものは仕方ないと諦め、瞳を動かし周りにある色々な器具を見渡す。

(よくわからない機械がいっぱい……。私、また…)

記憶が少し蘇る。知らない男達が色んな機械を自分につけているのは覚えていた。しかし思い出したくないと思う気持ちが先に働き、それは激しい頭痛をもたらした。

「っ」

酸素マスクをしているせいで声が出ない。しかも身体が動かないため、頭を押える事さえも出来ない。
その時、ガチャリと無機質な扉の開く音がした。
その音に少女は一瞬身体を強張らせたが身体が動かないので何も出来ない。
少女は入ってきた人物を大きな瞳で見つめる。

「あ、良かった気づいたんだね。待ってて博士を呼んでくるから」

茶髪の優しそうな青年が顔を覗かせる。青年は嬉しそうな顔を見せるともう一度廊下へと戻っていった。
すると先程『博士』と呼ばれていたいたであろう初老の男性が扉をゆっくりと開け姿を見せる。
その後ろには、赤ん坊を抱いた…外国の方だろうか、金髪の女性と先程の青年も立っていた。

「傷は大方治っとるな。呼吸も安定している。もう喋れるし動ける筈じゃ」

博士が周りの機械を見ながらそう言うと、少女に近づき酸素マスクと身体に繋がっていたコード類を取り外す。
けほり、と一つ少女が小さく咳をし上体を起こす。そして不安げに自分の手を交互に見つめた。

「こんにちは。気分はどう?」

赤ん坊を抱いた金髪の女性が微笑みながら少女に話かける。
少女は瞳を彼女へ向けると恐る恐る呟いた。

「大丈夫、です」

すると博士達は安心したような表情を浮かべ「よかった」と笑いあう。
青年が少女の前に立つと目を合わせるかのように腰を曲げ彼女の瞳を見つめた。

「君の名前を教えてくれないかい?」

少女は困惑したが、その青年の優しい声と微笑みに不安が少しがほぐれたのか口を開ける。

「杉久保 綾菜…って言います」

すると赤ん坊を抱いた女性が少女に嬉しそうに笑いかけた。

「綾菜ちゃんって言うのね!私はフランソワーズ・アルヌール。フランソワーズと呼んでくれると嬉しいわ」

綾菜はその笑顔に思わず見惚れてしまった。あまりにも純粋で綺麗な笑顔だったから。
綾菜がフランソワーズに見惚れていると、青年が微笑みながら手を差しだす。

「僕は島村ジョーと言うんだ。よろしくね綾菜ちゃん」

はっ、と我に返った綾菜は慌ててジョーの手を握り返した。

(悪い人達ではないみたいだな…暖かい……)

綾菜は心の中でそう呟く。すると────

『君の心は純粋だね』

「……え?」

急に聞こえた声に驚いた綾菜はジョーの手を思わず放してしまう。

「どうしたの?」

フランソワーズが心配そうに綾菜の顔を覗き込んだ。

「い、いや。今、どこからか声が…」

するとジョーは思い当たる節があったのか、くすくすと笑う。

「あぁ、それは多分イワンだよ。ほら、今フランソワーズの腕の中にいる赤ちゃん」

「へ!?いや、だってそんな小さな赤ちゃんが喋れるわけな『本当はテレパシーなんだけどね』い…?」

話を遮るように聞こえてきた声に綾菜は不思議そうに赤ん坊を見つめた。
赤ん坊は自分を見てもらえて満足したかのように感じる。

『はじめまして、僕はイワン。よろしくね』

幼い声と共にイワンが綾菜に向かって手を伸ばしてきた。

『ぼくとも握手してくれると嬉しいな』

「う、うん。えっと…私の手じゃ大きいから指で失礼するね」

綾菜が指を差し出すとイワンはその指をぎゅっと握りしめた。
その光景にフランソワーズが懐かしそうにふふ、と笑みを浮かべる。

「ジョー、確か貴方の時もこんな感じだったわよね?」

「そうだね。でも僕の時はもっと切迫詰まった感じだったけど」

何か思い出すような仕草をした後、ジョーは苦笑した。

そして突然の咳払いの音に皆の視線が『博士』に集中する。

「……諸君、私の事を忘れていないかね?」

「あら!ごめんなさい博士。綾菜ちゃん。こちらはね────」

「私はアイザック・ギルモア。皆からはギルモア博士と呼ばれておる。よろしく」

「はい。よろしくお願いします。あの、何で博士って呼ばれているんですか?」

「それは、だね…」

綾菜が首を傾げながら問いかけるとそう言うとギルモアは難しい顔をして黙りこんでしまった。
そんなギルモアを見て綾菜が怯え、自分の身体を守るように抱き締める。

「……サイボーグを作っているんです、か?」

「それは…、」

「………うん、そうだよ。『関わっていた』が正しいかもしれないけど…」

俯いてしまったギルモアに代わりジョーが静かに、眉を下げながら告げた。

「…じゃあ、貴方もあの人達と…同じ、なんですか……?!」

「あの人達?」

綾菜の声は震えていた。今にも泣き出しそうな声だった。
彼女は瞳を強く瞑ると言葉を絞り出す。

「私をサイボーグにした、人達と…っ」

その言葉に部屋の空気が冷え、重くなる。そのときイワンの声が部屋に響いた。

『博士は悪い人じゃないよ。ぼく達を受け入れてくれた唯一の人間だ。まぁ、お父さんみたいな感じかな』

お父さん、と言う単語を言った時イワンの声が少しだけ曇った気がする。
綾菜は瞑った瞳を開ける。

「信じて、いいですか?」

まだ少し震える声で言葉を紡ぎそして、ぎこちなく笑った。

「…あぁ、大丈夫。大丈夫だ」

ギルモアがそう言えば他の三人も頷く。
綾菜の幼さの残る笑顔が皆の心に焼き付いた。

「綾菜くん、まだ君は完全に回復した訳ではない。しばらくはここに居なさい」

ギルモアがそう言うと綾菜は慌てて頭を横に振る。

「そ、それは無理です!」

皆がキョトンとした顔になり顔を見合わせた。

「どうしたの?」
ジョーが不思議そうに聞くと綾菜は恥ずかしそうに少し頬を染めながら必死に説明をはじめる。

「だ、だって!私、料理は簡単なものしか作れないし掃除も苦手だし、気合入れると空回って何か壊しちゃうかもしれない…!!」

そんな綾菜の姿がおかしくって、皆が一斉に声をあげ笑いだした。
綾菜はいよいよ顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いたが、自然と笑いが込み上げ皆と一緒に笑う。


ずっと昔に忘れていた感覚がした。




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