Her always excites me!
なんとなくいつもより元気がないような気がした。
張々湖の店で働いている時も普段より反応が遅かったり、笑顔でお客を見送ったと思えば表情に影が落ちる。
あまりにも気になったので、閉店後に綾菜を呼び止めそれとなく聞いてみた。
最初は「何でもないよ」といつもみたいにはぐらかした笑顔を見せていたが、途中から翌日の仕込みを終えた張々湖も加わり彼女は観念したかのようにポツリと話し始める。
「…最近夢見が悪いの。だからあまり眠れなくて……」
過去の夢を繰り返し見る、と綾菜は瞳を伏せた。

彼女の過去は少し聞いた。でも、深くまでは知らない。
綾菜の笑顔は眩しすぎるほど純粋で周りが元気になる。まるで魔法のように。
そんな彼女の太陽のような笑顔を最近拝見できていない。
これは由々しき事態だ。

綾菜を先に帰らせグレートがそんな事を考えながら残りのお皿を洗っていると、
ふと視線を向けた窓に妙齢の女性が一輪の花を大事そうに抱えながら歩いていくのが見える。其の花にはとても見覚えがあった。そしてその花言葉も。
帰りに花屋に寄ってあれを綾菜にプレゼントしよう。
そしたら彼女は笑ってくれるかもしれない。
急なサプライズに綾菜がどんな反応を見せるか楽しみにしながらグレートは洗っても洗っても減らないお皿との戦いへと戻るのであった。


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「もし、そこのお嬢さん」
「わっ!グレートかぁ!お嬢さんなんて呼ぶから誰かと」

ギルモア邸に帰るや否や、グレートは後ろから綾菜に声をかける。
綾菜はいきなりの事に驚いて少し肩を揺らしながら振り返った。
目を丸くして苦笑をする彼女の瞳を見ながらグレートは軽く一礼した。

「実は貴女に渡したいものがあるのです」
「芝居口調が気になるけど…渡したいもの?」

彼は姿勢を正しふっ、と笑うと背後から一本の花を取り出す。

「オレンジの……薔薇…?」
「そう。お嬢さんはこの花の花言葉はご存じで?」
「う、ううん、知らない!」

ふるふる、と綾菜は頭を横に振るが目線は薔薇に集中している。
その目は好奇心に満ち、キラキラと輝きを増してきていた。

「オレンジの薔薇の花言葉は【絆】。そう、まるで私達のようではありませんか!」

グレートは大袈裟に天を仰ぎそう語ると静かに跪き、その薔薇を綾菜へと差し出す。

「ちなみに【愛嬌】という意味もあるんだ。この花を見た瞬間君が浮かんでねぇ…どうか受け取っていただけますかお嬢さん」

彼女からの返事は来ない。
ただ、綾菜の熟れた林檎のような真っ赤な顔を見れば、サプライズは成功と言えよう。
震える華奢な手がその花を受けとる。

「ありがとうグレート!すごい、すっごく嬉しいよ!!」
「それはなによりだ」

綾菜は赤いままの顔でとびきりの笑顔を見せた。
それを見たグレートは心の底から満足し、彼女へと白い歯を見せるのであった。

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タイトルは「シュレーティンガーの恋」様より。
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