A spring wind
「うわっ」
スーパーから出ると同時に突風に煽られる。
買い物に来ていた綾菜とジェットは思わず身構えた。
「来るときはこんな風吹いてなかったよな」
「でも天気予報で所により春一番が吹くって言ってたよー」
「…あのさ、いつも疑問に思ってたんだが『ハルイチバン』ってなんだ?」
ジェットは吹いてくる風に目を細めながら彼女に問いかける。
すると綾菜は少し難しい顔をしてしまった。
「えーっと…詳しい事は知らないんだけど、春になると日本では必ずと言っていいほど強い風が吹く日があるの」
「じゃあ、春が来たってのを知らせてくれるみたいな感じか」
「そうそう!そんな感じ」
そして再び強い風。二人は目を瞑るが、綾菜が少し間に合わなかったようで声をあげる。
「いっ…た!」
「お?どうした」
「め、目にごみが入った……っ」
「あーあー、擦んじゃねぇよ。ちょっと見せてみろ」
両手に持っていた荷物を片手にまとめてジェットは綾菜の顔に手を添える。
綾菜も大人しくジェットに身を任せた。
「んーと…あったあった。ちょっと痛いけど我慢しろよ」
「うん…」
ハンカチは持っていなかったので少し痛いが人差し指でちょんちょんとごみを取る。
まぁ、サイボーグなのでばい菌も入らないだろう、という考えもあった。
「よし、取れた」
「ありがとうジェッ…ト……」
いきなり口ごもる綾菜。何事かとジェットは首を傾げる。
「なんだよ」
「その、あの…ち、近いなぁって……」
少し紅くなりながら俯く綾菜にジェットはハッと状況を整理する。
目にごみが入ったからとは言ってもかなり近い距離、しかもここは路上だ。
「す、すまねぇ…」
ジェットも少し頬を赤らめると気まずい雰囲気。
なんとかこの空気を変えようと綾菜が歩き出す。
「じ、ジェットがごみを取ってくれたおかげでもう大丈夫だよ!ありがとう!!」
「あぁ」
ぎこちないがいつもの空気に戻った。ジェットが先を行く綾菜に目線を合わせると、
また突風が吹き荒れた。その瞬間────
ひらり
前にいた綾菜のチュニックがめくれ上がった。
その光景にジェットは一瞬唖然とした後、顔を更に紅くして綾菜の肩を掴んだ。
「おい綾菜!!」
「へ?」
「お、お前今服…っ」
「ああ、めくれたけど下短パンだから!」
大丈夫!と胸を張る綾菜だったが、ジェットにとっては大丈夫じゃ無いらしい。
確かに綾菜は下にショートパンツを穿いている。
しかし結構丈は短くて、チュニックがめくれると太ももが見えてしまうのだ。
「あーもうくそっ、荷物貸せ!」
「えっ、なんで…」
「そうしたら服がめくれないように押さえとけ!!」
「は、はい……」
あまりの迫力に綾菜は渋々とジェットの言われたとおりにする。
そして荷物を受け取ったジェットはズンズンと早歩きで進み、
それについていく綾菜の背中は少し嬉しそうであった。