Isn't it good in having loved?
静まり返るギルモア邸のリビングに少女、綾菜が思いつめたように座っていた。
手のひらをじっ、と見つめ指を開いたり閉じたりしている。
そこに、がちゃりと扉の開く音がした。

「あら、綾菜。どうしたの、さっきから手を見つめて…」

金糸の様な髪を少しなびかせ、フランソワーズが入ってくる。
その手には二つのティーカップが。

「あ…うん。ちょっと思い出しちゃって」

「思い出す?」

かちゃり、とティーカップを置き首を傾げるフランソワーズ。
それを見ると綾菜はありがとう、と微笑んだ。

「私が暴走して…皆を傷つけようとした時の事を、ね」

「それは綾菜が悪いわけじゃ…っ」

「……でも、実際手を出したのは私なんだよ」

紅茶に可愛らしい角砂糖を落としかき混ぜると「座って」とフランソワーズに促す。
綾菜が自分の事を話そうとすることは少ない。
フランソワーズは静かに向かいのソファーへと座った。

「あの時ね、私の意識ははっきりしてなくて…でも、誰かが『命令』を出してる事はわかってた」

「命令……」

「それを拒否しようとしても身体は言う事をきかない。あの時はもう一人の私がいたんだ」

綾菜は紅茶を一口含むと美味しいと笑う。

「暗闇の中であの子が皆を殺そうとしてた。私は止めようとしたんだけど逆に押し倒されて…」

フランソワーズは綾菜の沈んでいく表情を見つめながら手に力を込めた。

「レーザーナイフを目の前に突き出されて…何も、出来なかった。でもね……」

ふっ、と綾菜の口から自嘲の様な笑いが漏れる。

「泣いて、たんだよ…あの子。涙だけ流して……そして私に言った」



殺したっていいだろう。誰にも愛されない私なんて…ってさ



静寂だけが部屋を包み、紅茶は冷めていくが目頭が熱い。

「そしたら世界が開けて光が差し込んだんだ。そして目が覚めたら皆がいた…」

「……あの子も、綾菜の一部だったのかしらね」

フランソワーズの言葉に頷き少女は苦笑した。

「そうかもね。ジェットの言葉が私の心に刺さった…でもあれは皆を守る為のジェットなりの気遣いだったんだよね」

「口が悪いものねジェットは」

「本当に。でもそのおかげでふっきれたんだよ」


ただしがみついて、愛を貰う事しか考えなかった少女は

自分の中にある愛をいつか誰かに分け与える為に育つ


「綾菜、人はね愛したっていいのよ。愛されるだけなんて絶対にないもの」

フランソワーズはティーカップを手で包み小さく笑った。

「うん…皆と出会えてよくわかったよ。本当に、ありがとうね」

二人は笑い合うと玄関から声が聴こえた。
また騒がしく楽しい毎日がはじまる。


これはとある愛世のお話





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BGM「モザイクロール」by:DECO*27

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