Merry Christmas!
「クリスマスだー!」

「はいはい、綾菜少し落ち着いて。」

はしゃぎながらクリスマスツリーを飾りつけている綾菜とそれを軽く流しながらも着々と飾りを終わらせていくフランソワーズ。
今日はクリスマスイブ。そのため皆でパーティーをする事が決まった。

「クリスマスってあれだよね?ご馳走食べる日!」

「…綾菜はクリスマスパーティやった事ないの?」

「あー、両親が早く死んじゃったから…。親戚の家はおじいちゃんとおばあちゃんだけだったし……」

少し悲しそうに俯く彼女にフランソワーズはしまった、と口に手を当てる。

「ごめんなさい…軽率な事言っちゃって」

「いやいや別に気にしてないから!それよりパーティ楽しみ!!」

綾菜は慌てて首を横に振り笑った。

「…ありがとう。優しいのね」

「そ、そんな事言っても何も出ないよっ」

あはは、と恥ずかしそうに笑う綾菜にフランソワーズも微笑みながらツリーの飾り付けを再開した。





*****
「完成ー!」

「お疲れ様綾菜」

ようやくツリーの飾りつけが完成したようで二人は満足気に顔を見合わせる。

「さ、もうすぐ買い物班が帰ってくると思うから張々湖の所へ手伝いに行きましょうか」

「うん!」

ぱたぱたと走っていく綾菜を見つめながらフランソワーズはポツリと呟いた。

「まだまだ子供ね…」



「張々湖ー!なんか手伝うよ!!」

張り切ってキッチンまで走ってきた綾菜だったが────

「ダメネ!綾菜に手伝わせられない難しい料理なのヨ!」

「えぇー」


即、却下された。


「じゃあお皿を運ぶだけでも!」

「…綾菜。アンタ、何枚皿を割ってると思ってるカ?」

「え…。あは、あはははは」

その言葉に思わず綾菜は瞳を空中に泳がせ乾いた笑い声を発した。

「とにかく!綾菜は大人しくしてればヨロシ!!」

「残念…」

とぼとぼ、とキッチンを出て行く背中を見て張々湖はため息をつく。

「今日は綾菜の好きな食べ物沢山あるから楽しみにしてるといいネ」

そう言った途端、綾菜は振り向き嬉しそうな笑みを浮かべる。

「ありがとう!」

そう言い綾菜はキッチンから出ていく。次に向かう先は玄関だ。
その途中でフランソワーズと擦れ違い、事情を話すとフランソワ−ズは納得しキッチンへと入っていった。

「張々湖、手伝いましょうか?」

「おぉ、フランソワーズ!丁度よかったネ。これ、運んでもらいたかったのヨネ!」

ホイ、と皿を渡されるととフランソワーズは苦笑した。

「綾菜に運ばせたらせっかくのご馳走が大変なことになっちゃうものね」

「まったくヨ!まったく、何であんなに皿をひっくり返すアルか…」

「張り切り過ぎて空回っちゃうのよ綾菜は」

と、普段の光景を頭に浮かべ笑うと玄関の方が騒がしくなる。

「あら、帰ってきたみたいね」



「ただいまー」

「お帰り!」

お出迎えはもちろん綾菜だ。

「ね、ね!何買って来たの?」

綾菜はキラキラした瞳で買い物組を見つめる。

「とりあえず落ち着け綾菜。シャンメリーとか買ってきてやったから」

苦笑しながら綾菜の頭を撫でるハインリヒ。

「うわぁ!初めて飲むよっ!楽しみだなー!!」

幼い子供の様にはしゃいでいると、ハインリヒの後ろからジェットが顔を出した。

「お前本当に子供だな!シャンメリーじゃなくてシャンパンだろクリスマスは」

少し馬鹿にした様に言えばそれに反論するピュンマ。

「こら。子供に変なこと教えるなよ」

「わ、私もう子供じゃない!ジェットと1歳しか変わらないもん!!」

「ほぅ、じゃあシャンパンの飲み比べするか?」

「いいよー!」

ジェットと綾菜がわいわい言い合いをしている傍から声が降ってきた。

「ジェットはいいが綾菜は駄目だ。まだ未成年だ」

声の主は沢山の荷物を抱えたジェロニモである。

「えー、ジェットだって未成年でしょ?」

「だって俺は確かに18だが飲んでも支障ないしな」

「……おじちゃん?」

「んだと、このっ!」

「あー…、どうでも良いんだが早くあがってくれないかねぇ」

「後ろが詰まってるよ」

その声は顔に疲れが出ているグレートと苦笑しているジョーだ。

「あ、ごめんなさい。部屋暖まってるよ!」

置いてあった買い物袋を持ち上げると綾菜はリビングに続くドアを開ける。


「うわぁ…すごい飾りつけだね。」

「えへへ。フランソワーズと頑張ったの」

リビングには綺麗に飾られたツリーと美味しそうなご馳走が。
皆にはそれらが宝石のように光って見えた。

「みんなお帰りなさい。綾菜、博士とイワンを呼んできて」

「はーい!」

リビングを出ると少し寒さに身体を震わせ、綾菜は博士の部屋へと急いだ。

「博士ー、綾菜です。パーティ始まりますよ!」

「おぉ、今行くよ」

コンコンと扉を叩けば声が返ってくる。
そして扉が開き、イワンを抱っこしている博士が笑みを浮かべていた。

「じゃあ行こうか」

「あ、ちょっと待って博士」

そう言うと綾菜は少しかがんでイワンにある物をかぶせた。

『これなに?』

「サンタの帽子だよー。うん、やっぱり可愛い!」

イワンの頭を帽子越しに撫でながら微笑む綾菜。博士もつられて微笑んだ。

『うーん。あまり似合ってない気がするんだけど…』

一人納得しないようで帽子を手でいじってみるイワン。

「ううん!すっごく可愛いよ!!さ、行きましょう博士、イワン!」




「お待たせー!」

「お、なんだよイワン。その帽子良く似合ってるじゃねぇか」

『…褒め言葉としてとっておくよ』

ジェットがイワンをからかっていると、張々湖が最後の料理を運んできた。

「さぁ、皆で乾杯ネ!」

「おー!カンパーイ!!」

声が部屋に響き渡り、暖かい空間を作り出した。
未成年組はもちろんジュースだ。大人組は買ってきたシャンパンを早速開けて飲んでいる。

「ジョー。何で日本はお酒は20歳からなのかなぁ…」

「さぁ、身体に悪いからじゃないかな?」

「でもドイツでは16歳からいいんだってハインリヒが言ってたよ?」

「まぁ、国それぞれって事だよね」

「でもね!シャンメリーも凄い美味しいよ!」

綾菜とジョーがそんな話をしていると隣からジェットが綾菜のお皿に手を出してきた。

「へへっ!いただき!!」

「あー!私のお肉ー!返してー!!」

「やーだね!」

「…どっちが子供なんだか」

「まぁ、二人とも兄弟みたいで微笑ましいよ」

その光景に呆れるハインリヒと苦笑するピュンマだった。
パーティは何事もなく進みそろそろ料理も無くなりそうな頃、ふとジェロニモが思い出したように口を開く。

「そういえば、綾菜にプレゼントがある」

「え?」

綾菜はきょとん、とした顔をする。グレートも手を叩いた。

「おぉ!そうだ。すっかり忘れるところだった」

「じゃあ、代表して僕から渡すよ」

ジョーはそういうと、黄色いリボンでラッピングしてある赤い箱を綾菜に渡した。

「うわぁ…開けてみていい?」

「どうぞ」にこ、とジョーが微笑むと綾菜はリボンをほどいた。

「! 綺麗…!」

箱の中から出てきたのはシンプルなクロスのペンダントだった。

「綾菜は派手なの苦手だろ?だから皆でそれを選んだんだ」

ハインリヒも微笑む。すると綾菜は慌てだした。

「で、でも!私は何もプレゼント用意してない…」

「いいのよ。だってこの中では綾菜が一番最年少じゃない。少しは甘えなさい」

「そうヨ。綾菜は張り切りすぎ!遠慮なんかしちゃダメヨ!!」

「僕らだって綾菜にいつも元気づけられているんだ。これ位のお返しはしないとね」

「ありがとう、皆…!」

綾菜は箱ごとペンダントを抱きしめる。嬉しくて、堪らなかった。

「つけてあげる」

フランソワーズが後ろに回り優しくペンダントをつけてくれた。

『似合うよ綾菜』

「ふむ。可愛いよ」

「えへへ…」

ギルモア達にも似合う、と言われて嬉しそうな綾菜。
初めてにして最高のプレゼントだと思った。

「…さて、お前はどうする気だ?ジェット」

ハインリヒが話を振ればぎくり、とジェットは肩を震わせる。

「たしか…、ジェットは他にプレゼントを用意してるっていってたよね」

「そうなの?」

「あぁ、そう言っていた」

皆の視線が痛いくらいに突き刺さる中、ジェットはそれに耐え切れなくなったかのように立ち上がった。

「あぁ、もう!来い綾菜!!」

「え?え!?」

ジェットは思いっきり綾菜の腕を引っ張り無理やり起き上がらせるとテラスのほうへ走り出す。
そして近くにあった二人のコートを掴んで綾菜のを渡した。

「着ろ!」

「な、なんで!?」

「いいから早く!!」

渋々と着てテラスに出ると、ジェットが待っていた。
そしてジェットは綾菜の後ろに回り込み、呟く。

「特別なプレゼントなんだからな…」

「なに言って……わぁ!」

突然ジェットは綾菜を横抱きにして飛び立った。

「しっかり捕まってろよ!」

「わ、わかった…!」




二人が飛んでいった後、残された皆はため息をつく。

「まったく、なんでジェットはあんなに行動が突発的なのかしら……」

『でも…、似たもの同志だよね』

イワンの言葉に誰もが頷いた。







「ほら、綾菜見てみろよ」

「え、うわぁぁぁ!凄いー!!」

空を見上げれば満点の星空、下を見ればイルミネーションで明るい町並み。まるで────

「どこを見ても星がいっぱい!」

「どうだ?いい眺めだろ」

「うん!凄く綺麗!!」

目を輝かせている姿は女の子そのものだ。
その姿にジェットは笑みを浮かべた。

「…やっぱりガキだな」

「なんか言ったー?」

「いいや、なんでもない」

「あ、そうだジェット!メリークリスマス!」

結構発音いいでしょ、と笑う綾菜だったが、ジェットはニヤっと笑う。

「ばーか。俺のほうが全然発音上手いぜ?」

すると少し顔を近づけそっと囁いた。



「Merry Christmas 綾菜…」









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