Reason to have believed her
ダッ、とハインリヒに向かって綾菜が駆け出す。
そのスピードは速く、綾菜がいかに運動神経が良いかをわからせた。

「くっ……!」

ハインリヒのレーザーナイフとは違うリーチの長い鎌形のそれ。それを振り回す綾菜の姿はまさに死神の舞であった。
彼は左手のハンドガンを綾菜へと向け狙いを定める。
もちろん当てるのではなく掠めるギリギリを狙い、撃った。

ザッ、人工皮膚の焼ける音が聞こえる。が、綾菜の表情は変わらず定まらない視点はハインリヒを捉える。
すると綾菜は一気に間合いを詰め、ハインリヒの顔面すれすれに手をかざす。
パチリと聴こえる電流の音。これはやばい────、ハインリヒはとっさに綾菜の手を掴む。


「……げ、」

「…!?」


綾菜の口が微かに動く。それをハインリヒは見逃さなかった。
焦点の合わない瞳。しかしその瞳から一粒の雫が零れ落ちる。

「に、……げ、て」

「お前さん……」



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「…つまり、彼女は自分の意思で僕達を傷つけようとしたわけではないんですね?」

ギルモア邸に戻った二人が綾菜に関しての情報をギルモアから聞いた。
ジェットは罰の悪そうな顔で俯く。

「あの子は本当に優しい、人に危害を加える子じゃない。それはワシらが良くわかっとる…」

フランソワーズも強く頷いた。

「…彼女を元に戻す方法はないんですか」

ピュンマが問いかけるが、ギルモアは静かに首を横に振った。

「でも博士、僕はさっき見たんです!綾菜の…悲しそうな瞳を」

一瞬だけだったがいつもの、いや最初に会った頃の彼女の瞳。
酷く怯え、今にも泣き出しそうなその顔を────────


「まだ、僅かだがあの子に心が残っていると言う事だよな?」

グレートが言い、その言葉にフランソワーズが立ち上がる。

「それならまだ希望はあるんじゃないでしょうか博士!」

切実な願いだった。あんなに豹変してしまった綾菜をもう見たくない…、もう沢山だと。

「うむ…、せめてイワンが起きていてくれれば……」

イワンはまだ眠り続けている。それならば────

「僕、綾菜を止めてみせます」

「ジョー…!?」

「少し乱暴になってしまうかもしれないけど…気絶させて一旦機能を停止させれば…!」

ジョーの瞳にはハインリヒと感情を失ってしまった少女を写していた。
ギルモアも俯く顔をあげ、それしかないと決意を固める。

「おい、俺も手伝う」

その声の主はジェットだ。先ほどの話を聞かされ自分の勘違いに気づかされた。
謝らなきゃいけない、あいつに。そう、思ったのだ。

「ありがとうジェット。助かるよ!」

「ま、待って!それなら私も……!」

フランソワーズも二人に続こうとするがジョーに止められる。

「君はここで待っていてくれ」

「でも!」

「君が傷つくと綾菜も悲しむ」

「……」

フランソワーズはもう、何も言えなかった。
大丈夫だから、と声をかけジェットと共に砂浜へと戻る。

「ジェット」

戦っている二人の場所へと走っている時、ジョーは隣の男へと声をかけた。

「何だよ…っ」

「僕達が彼女を信じた理由、それはね────────」



心の底から彼女が僕達を信じてくれたから

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