Girl with sad eyes
「ど、どうしてなの…綾菜……っ!」
ガタガタと震えながらフランソワーズが問う。しかし、その問いは綾菜には届かなかった。
ジョーはハインリヒにフランソワーズを預けると奥歯のスイッチを噛み締める。
カチッと音がした瞬間、ジョーは綾菜の背後に回り彼女を羽交い絞めにした。
「やめるんだ綾菜!どうして君が…っ!?」
パチリ、と電気の流れる音がジョーの耳に入って来る。
ジョーは身の危険を感じ後ずさると綾菜の身体から大量の電撃が放出された。
その衝撃でギルモア邸は大きく揺れ、一同はまたしゃがみこむ。
「ほらな!俺の言ったとおりだろ!!あいつはやっぱり敵だったんだ!!!」
「違う…違うわ…あの子は………っ」
飛び出そうとするジェットにフランソワーズは弱々しく反論する。
しかし、目の前にいるのは間違いなく半月の間共に生活してきた女の子。
サイボーグになって初めてできた女の子の友達────────
「しっかしなんてパワーだ。このでかい家が揺れたぞ…!」
ハインリヒはフランソワーズを座らせると辺りを見回す。
他の仲間達も戦闘体制に入っているが問題は一つ。
あの電撃では誰も近づけない。
「綾菜は、0010の改良型なんじゃ……」
ギルモアは静かに口を開く。
そして0010、悲劇の双子を思い出していた。
「だから、体内に貯められている電気は0010以上。それと綾菜は多分自分の意思で動いておらん」
「それは…どういうことです?」
ハインリヒが博士へと目線を向ける。
「『感情制御装置』。それがあの子の頭に取り付けられておる」
「!」
「構造が複雑での…。どうしても取り外す事ができなかったんじゃ……」
悲しい瞳をしながらギルモアは俯く。
口を噤むハインリヒは目線を綾菜達へと戻した。
そこには、ジェットが綾菜に向かってスーパーガンを向けているところであった。
「おい、お前はやっぱり俺らを殺すためにここに来たんだろ!?」
「……」
綾菜は答えない。彼女の瞳はジェットを捕らえると砂浜を強く蹴り走り出した。
「な…っ!」
突然の事にジェットはスーパーガンを放つがそれを綾菜は簡単に避けてみせた。
そして彼女は手を前に突き出すとジェットに向かって電撃を放出する。
「うお……っ!?」
が、ジョーが間一髪ジェットに体当たりをかまし二人は砂浜に転がった。
綾菜は一歩ずつ砂を踏みしめながら二人に近づく。
ジョーはもう一度加速装置を発動させ綾菜の目の前に立つ。
そして彼女の肩を掴んだ。
「落ち着くんだ。君はこんな事する子じゃない!君は人に手を上げる子なんかじゃ……」
その言葉に綾菜は一回身体を大きく振るわせた。それに気づいたジョーは綾菜の瞳を見据える。
さっきとは違う、悲しそうな────寂しそうな瞳をした少女がそこには居た。
その瞳をジョーは見たことがあった。
「おいジョー!早くそいつからどくんだ!!また電撃がくるぞ!!!」
その言葉にはっと気づいた時には遅し、綾菜はまた感情の無い瞳に戻っていた。
勢いよくジョーの手を払うと今度は両手の横から鎌型のレーザーナイフが飛び出しジョーの髪を掠めた。
ジェットが慌ててジョーの腕を引き後ろへと戻す。そしてジェットが再びスーパーガンを取り出そうとするとある人物が2人の前に立ちふさがる。
その人物はハインリヒであった。
「お二人さん。この子の相手は俺がする。その間にギルモア博士から話を聞いてこい」
「それはどういう…」
「それは聞いてからのお楽しみだ。特にジェット、お前はよく聞いてこい」
「……ちっ、わかったよ!」
ジェットとジョーはギルモア邸へと戻っていく。
ハインリヒは綾菜を見て少し悲しそうな瞳を向けた。
「お嬢さん、博士から話は聞かせてもらった。お前さんがどれだけいい子だったかもな」
綾菜はレーザーナイフを構える。するとハインリヒもレーザーナイフを構えた。
「参ったね。長さ的にはこっちの方が大分不利だ」
ハインリヒは皮肉な笑みを浮かべると綾菜に向かって飛び込んでいった。