Believed feelings
綾菜が去った後、ギルモア邸には静寂だけが残っていた。
その空気を切り裂いたのはパァンっという大きな打音。
フランソワーズがジェットの頬を引っ叩いた音だった。
「っ!痛ってえな何すんだよ!!」
「何すんだよじゃないわよ!あの子はて、敵なんかじゃな……」
はらはらとフランソワーズの大きな瞳から雫が零れ落ちる。
ジョーはフランソワーズの肩を支え口を開いた。
「君達は今日出会ったばかりだけど、僕たちは半月程あの子と一緒にいたんだ。だから…」
ジョーがジェットに視線を向ける。
怒っている訳でも憎んでいる訳でもない瞳で。
そしてまた掴みかかろうとするジェットをハインリヒが静止した。
「落ち着けジェット。確かにあっちの言い分も正しい。でもなジョー、あの子を信じられるという証拠は何かあるのかい?」
ハインリヒの言葉にジョーは言葉を詰まらせた。
確かにこの半月の間一緒に過ごした
段々と笑顔を取り戻してくれて
一緒に家事もして
でも
それが演技だったら?
自分達を攻撃してきたら?
それでも────
「それでも僕は信じる。信じたい」
俯いた顔をハインリヒへと向けはっきりとした言葉で言い放つ。
「だって、あの時…────」
「っ!」
ハンカチで涙を拭っていたフランソワーズの身体が大きく震えた。
「どうしたネ、フランソワーズ!」
張々湖が心配そうにフランソワーズへと駆け寄る。
「電気…なにか電流の走る音が聴こえてきて……」
その言葉に一同はざわめき、辺りを見回す。
しかし何も起きない。波の音が聞こえるだけ。
「な、なんだって言うんだまったく…」
グレートがごくりと生唾を飲み込んだ瞬間────
激しい音をたてながらリビングの蛍光灯が割れ、地面に散らばった。
「きゃあああああ!!!!」
「あぶないっ!!」
ジョーはフランソワーズを庇う様に抱きしめる。
ジェロニモはギルモアを抱え、皆は一斉にしゃがんだ。
「なにが起きているってんだ!!」
ジェットが叫ぶとピュンマが窓のほうを指差した。
「おい!誰か窓の外にいるぞ!!」
皆の視線が一斉に窓に集まる。
最初は逆光になっていてよく見えなかったが、目が慣れてくると輪郭がはっきりとしてきた。
「き、君は………」
「どうし、……て…?」
そこには見覚えのある赤い服に黄色いマフラー。
そして、笑顔を無くした綾菜の姿があった────。