Worst part of the scenario
とぼとぼ、と力のない足取りで綾菜は街中を歩いていた。
もう、あの場所に自分の居場所は無い。
そう思ったらまた無性に泣きたくなってきたが、もう涙は枯れ果てた。
「おじいちゃん…おばあちゃん…」
ふと口から出てきた言葉は自分を育ててくれた人達。
(なんでこんな事になっちゃったんだろ…。こんな事ならおじいちゃん達の家から出なければよかったのかな……)
綾菜は高校生になり、一人暮らしをするから家を出ると言った事を思い出した。
二人は反対したが、綾菜はもう迷惑をかけたくないと無理矢理出ていったのだ。
今更そこにも帰れない。
はぁ、と溜め息をつくといきなり腕を引っ張られ路地裏に引きずりこまれた。
「っ!?」
「…よぉ、会いたかったぜ」
綾菜が顔を上げるとそこには見覚えのある顔。
自分の身体を改造した、男────
綾菜の顔は一瞬にして恐怖の色に変わり必死にもがき抵抗した。
「はっ、離して!いやぁっ!!」
「いってぇ!?」
「…え?」
綾菜が恐る恐る目を開けてみると痛そうに腕を押さえている男が見えた。
自分の手を見るとまだ僅かながら電流を発していてパチパチと音がする。
「な、に…これ…」
訳が分からず綾菜はガタガタと震えだした。
それは『普通』の人間で無くなってしまった自分自身への恐怖か。
改造を受けた事は覚えていたが、自分の能力までは把握をしていなかったのだ。
「ふんっ。お前にそういう能力を与えたのを忘れていたよ」
男は不気味な笑みを浮かべると綾菜に近付く。
綾菜はそれに気がつくと急いで後ろに下がった。
「こ、こないで……!それ以上私に近付くなら…っ!!」
そう言うと綾菜はと腕を男のいる方向へ伸ばす。
またさっきみたいに電気を出せれば────
「はっ!俺に向かって電撃を放とうというのか?さっきは強めの静電気くらいだったからよかったものの…もう少し強かったら俺は死んでいたぞ?」
“死んでいた”と言う言葉を聞いた途端綾菜の身体がビクッと跳ねる。
瞳からは涙が流れ、記憶のフラッシュバックを引き起こす。
自分のせいで『また』誰かが死ぬ。
がたがたと身体を震わせながらゆっくりと腕を降ろした。
それを見た男は面白くなさそうに悪態をつく。
「ちっ…。やっぱりお前の感情は邪魔だな。これじゃあ何の為に00ナンバー達の所に送りこんだかわかりゃしない」
その言葉に綾菜は目を見開きゆっくりと顔を上げる。
「いま…なんて…?」
すると男は大声で笑いだした。
「はっ!ははは!わかってなかったのかよ!お前があの研究所から逃げだしたのも、00ナンバー達の所へ流れついたのも全部仕組まれていた事だったんだよ。…00ナンバー達を破壊する為のなぁ!」
「!」
綾菜はキッと男を睨むと再び逃げようと試みる。
(駄目だ…!私がここにいたら皆を…!!)
できるだけ遠い所に、と綾菜は駆け出すが────
「おっとぉ!逃がすかよ!!」
男がポケットから小さな機械取り出し、そのスイッチを押した。
その瞬間、綾菜の身体に衝撃が走り悲鳴をあげ頭を抱える。
「ひ…っ!?あああああああああああぁぁぁぁぁああ!!!!!!!」
身体の脱力感の次は激しい頭痛。
まるで誰かに脳内を掻き回されている様な感覚。
キモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイ!!!!!
「ぁ…あ…」
やがて綾菜の悲鳴が途切れた。ゆらり、と綾菜は立ち上がる。
その瞳にはもう、光はなかった────。
「感情制御装置…付けておいて正解だったな」
ふっ、と男はいやらしい笑みを浮かべた。
そして綾菜の顎を掴み上を向かせ命令を放つ。
「さぁ、00ナンバー達を全滅させてくるんだ。試作品」
シ サ ク ヒ ン
ゼ ン メ ツ
「な…っ!?」
男の肩を綾菜の手が捕らえる。男が手を振りほどこうとするがびくともしない。
男を見る綾菜の瞳は完全に据わっていた。
「この…っ!化け物がぁ!!」
路地裏で電流の流れる音と誰かが倒れる音、そしてゆっくりとした足音を聞いていたのは青い青い空だけだった。