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一方、孫家の前では壮絶な口論が飛び交っていた。
「本当にデートに誘いに来た訳じゃないんだべか!?」
「違うって言ってるでしょ!!」
今にも喰ってかかりそうなビーデルだったが、チチの視界に自分の子供達が入る。
悟に関しては見知らぬ人に怯え思わず悟飯の後ろに隠れた。
「や、やあ!」
その声にビーデルが振り向く。悟飯が近づけば其処には不機嫌そうな少女の顔。
「よ。よくここがわかったね…」
「名簿を見れば簡単よ。それよりなにさ!勝手に休学届け出しちゃって」
空を飛ぶの教えてくれる約束でしょ!とビーデルは悟飯に詰め寄る。
悟飯は困ったように悟天と自分の足元に引っ付いている悟に目線を向ける。
悟天はいつも通りキョトンとした顔をしているが、悟に限っては目に涙を浮かべている。
これはまずい、と悟の頭を撫でながらビーデルの問いに答える。
「あ、ああ。もちろん教えるよ…」
「悟飯ちゃん、この娘っ子も武道会に出るって本当だべか?」
「本当だよお母さん…。舞空術を教える約束したんだ」
元々武道会の事はビーデルさんから教えてもらって…、と説明をしてもチチは腑に落ちないようだ。
ふうん……、と呟くと────
「そんならまあいいだが…。おめえお礼だとか言って悟飯ちゃんにエッチな事すんじゃねえだぞ!」
するとビーデルの顔はたちまち赤くなり怒鳴った。
「そんな事するわけないでしょ!!いーーーーだっ!!!」
その様子を見ながら悟飯は肩を落とす。
静かに修行したいのに……という言葉は双子にしか届かなかった。
************
「えー、では三人に舞空術、つまり空の飛び方を教えます。これは気のコントロールなのでそんなに難しい事ではありません」
速いスピードで飛ぼうと思ったらそれなりに大変ではありますが、と付け加える。
するとそこでビーデルが悟飯に問う。
「ねえ…『キ』ってなんなのよ……」
悟飯はその発言に驚く。
「え!?気…って……。そうか、君達の所じゃ言い方が違うのかな。ほら、身体の中にある隠されたパワーというか…」
「ええ…!?なによそれ…隠されたパワー!?」
焦れったくなったのか悟天がこういうやつだよ、と手から気弾を放つ。
大きな岩が木っ端微塵になった。
「……あ…そう……」
目を見開き信じられないものを見たような顔をするビーデル。
そして視線が向かうのが悟。
「貴女もこういうのできるの……?」
一見普通の幼い女の子。その言葉に少しむっときたのか手を他の岩場にかざす。
そして────────
ドォォォォオオオン
同じく木っ端微塵に吹き飛んだ。ビーデルは開いた口が塞がらない。
「なんていうの?君達は気の事を」
悟飯の言葉にはっと我に返るビーデル。そして頬に手を当てる。
「ト……トリックかしら…」
その言葉に悟飯は屈託のない笑みを浮かべ、
「…トリックとは全然違うよ。仕掛けなんかないもん」
と言うが、ビーデルは訳が分からないと怒鳴りはじめる。
「…だったらはっきり言ってそんな魔術みたいな力は知らないわよ!聴いたこともないわ!!」
半分ヒステリックを起こすビーデルに悟飯は目を見開き困った顔をした。
「え……!?……気を知らないって…って。こ、困ったなそいつは……」
困り果てた悟飯にビーデルが詰め寄る。
「ね、ねえ!ひょっとして『キ』がないと空を飛べないの!?」
たじたじと一歩下がる悟飯だったが必死に宥めようとした。
「だ、大丈夫大丈夫。気は誰だってあるからさ!コントロールが難しいだけ」
ほんと!?と喜ぶビーデルに対し不満そうに見つめる双子。
その様子に慌てた悟飯は
「悟天、悟。舞空術はもうちょっと待ってくれ。ビーデルさんに気の使い方をまず教えるから」
そう言うと二人は少し寂しげに頷く。そして、仕方がないので近くの岩場で遊ぶ事にした。
「ねえねえ悟!でっかいクワガタ!!」
「わぁ!こんなに大きいの見たことないね…!」
さっきまで不満だらけの顔だったが遊びとなれば別。
悟天と悟は昆虫採集に夢中になっていた。
そのうち昼ご飯をチチが用意してくれた。
そして何故だかビーデルと悟飯が結婚すればいいのに、とチチが言った直後に悟飯は口の中の物を吹き出す。
それは目の前に座っていた悟天と悟に思いっきりかかったのはまた別のお話。
*******
「ねえ悟天…」
「ん?どしたの?」
土で絵を描いたりしながら遊んでるといきなり悟が悟天に声をかける。
悟は何か決心したような顔で呟いた。
「私…飛べるかもしれない……」
いきなりの発言に悟天は吃驚した。
まだ習ってもいないのに出来るわけないと思っていた。しかし────────
悟は足元に気を集中させる。
すると悟の足元に転がっていた小石がカタカタと震えだした。
そして────
ふわり
少しだが浮いたのだ。元々気のコントロールが上手い悟だったがまさかここまで出来るとは。
すとん、と降りると悟天がむくれた顔をしていた。
「悟ずるいよー!僕にも教えてよ!!」
「え…。でも感覚で掴むしかない、し」
お兄ちゃんに基礎を教わった方が良いよ、と悟天を宥める。
それでも悟天の機嫌は直らない。これには悟も慌てた。
「お兄ちゃんの所にいこ!ね?」
悟天の手を引き悟は悟飯とビーデルの元へと向かった。
そのときちょうどビーデルの気を引き出せた所だった。
「兄ちゃん!悟もう飛べるようになっちゃったんだよ!!」
悟天が頬を膨らませ抗議する。さすがの悟飯もそれには驚愕した。
それと同時にやはり気のコントロールが上手いのかと実感もさせられる。
「まだ浮ける程度だけど……」
「それでも凄いじゃないか!兄ちゃんの言ったとおりだったろ?」
それを見ていたビーデルが嬉しそうに言う。
「ねえ!私ももう飛べるかな!」
その言葉に悟飯は苦笑する。
「それはまだ無理だよ。気を自由自在にコントロールできるようにならなきゃ!」
その言葉にビーデルは肩を落とした。
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空に赤みが差し込んできた頃、ビーデルはなんとか地面から足を離すことに成功していた。
「やった浮いた!ちょっとだけ浮いてるよ!!」
「しーっ!黙ってて!!集中できないから…!」
喜ぶ悟飯に静かに喝をいれるビーデル。
そうとう集中力を使うらしい。
ふうっ……、と地面に降りたビーデルの額には汗が浮いていた。
「す、凄いじゃないか!たった一日で浮ける様になったなんて!!」
素直に関心する悟飯だったが、ビーデルが見つめるのは空中。
────否、ビュンビュン飛びまくる悟飯と悟の姿だった。
「そうかしら…」
「やったやったー!兄ちゃんほらー!!」
「こんなに飛べるようになったよ!」
その姿に悟飯は思わず絶句する。
なんとかフォローをいれようとするが、ビーデルは納得できないようで。
「また明日も来るわ」
「え!?」
いきなりの事に焦る悟飯。
「な、なんで!?もうほとんど出来たも同然じゃない…」
あとは自分だけでも十分、と言っても彼女は引かない。
「気の事もっと知りたいわ。それとも私がいたら迷惑!?」
「い、いや!そんな事ないけど」
「じゃあ、明日ね」
どんどん会話が成立していく。その様子を不思議に思った双子は二人の元へと向かう。
しかし、降りてきたときには真っ赤になったビーデルの怒鳴り声が響いていた。
「うるさいわねほっといてよ!そんなの私の勝手でしょ!!」
その声に驚き悟は悟飯にしがみつく。
そしてビーデルは去っていった。
「……おねえちゃんなんで怒ってたの?」
「わ…わからない……」
「……び、びっくりした……」
三人は目を見開き首を傾げた。
次の日、ビーデルが綺麗な髪をバッサリと切って現れた時も三人は理解が出来ずじまいであった。