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天下一武道会が開催されることが決まった。
それと同時に悟飯の変装がビーデルにバレてしまう。
出場しないと正体をばらすというとんでもない脅し文句を突きつけられた彼はYESと答えるしかなかった。
それぞれ顔馴染みの所へその事を伝えに行くとなんと悟飯達の父、悟空まで一日戻ってくると言うのだ。
それぞれの喜びと不安を胸に彼は帰路につくのであった。
「えー!悟空さが天下一武道会のためにあの世から帰ってくるって!?そったらビックニュースなしてもっとはやく言わねえんだよ!!」
夕飯時、チチの叫び声が響き渡る。
悟は思わず箸を止めた。
「よかったなー悟天、悟!お父と一日だけ会えるってよ!!」
喜ぶチチだったが肝心の双子は首を傾げていた。
父親の顔を見たことのない二人にとっては想像もつかない事なのだろう。
まいっただなー、と頬を染めるチチに悟飯は上目がちに母を見つめる。
そして、本題を切り出した。
「あ…あのお母さん…。ぼ、僕も出ちゃ駄目かな天下一武道会…」
優勝すると1000万ゼニー貰えるんだけど…と最後の方は小声になってしまったがチチにはちゃんと聴こえていたようで────
「1000万ゼニー!?!?」
チチはばんっと机を叩きそれに悟がビクっと身体を振るわせる。
ずずいっと悟飯の方へ身を乗り出し────
「出場しろ悟飯ちゃん!おめえと悟空さで賞金1500ゼニーも貰えるんだべっ!?」
「い、いや…、まだ勝てると決まった訳じゃ…」
「いいや必ずどっちかが優勝はするだよ!!」
そんな母と兄の会話を聞きながら双子は、
(明日からお兄ちゃんと一緒にいれる!)と喜んでいた。
そんな傍ら悟飯は思わぬ母の反応に胸を撫で下ろすのであった。
寝る前、悟飯が電気を消すと二人に問いかける。
「悟天、悟。明日っからの修行、兄ちゃんを手伝ってくれるか?」
「うんっ!!」
「……私もいいの?」
悟は布団に半分顔を埋めチラッと悟飯を見る。
一瞬呆気に取られたような顔をした悟飯だったがすぐに笑顔になった。
「もちろんさ!皆で修行しような」
そう言うと悟は安心したように笑みを浮かべた。
**************
次の日、家から大分離れた山の中に三人は居た。
「とりあえず超サイヤ人になっとくかな…」
よっ、と気を高めれば悟飯の髪は金に染まり瞳は綺麗な空色へと変化した。
「よーし、はじめるか!!」
「「おー!!」」
ボキボキと手を鳴らす悟飯と片腕を掲げる悟天と悟。
すると悟飯はそこら辺に転がっている小石を集め始めた。
「お兄ちゃん、何をするの?」
「ん?とりあえず反射神経の勘を取り戻そうかと思ってな」
適当に小石を集め終えると足で地面に線を引く。
「悟天、この線の辺りから兄ちゃんに向かって石を投げてくれ」
「うん、わかった」
「……私は?」
「悟はもう少し後で一緒にやってもらうからな」
安心しろと言うと悟は少し寂しげに少し離れた岩場に座った。
「え!?こんな近くからでいいの?」
驚きながら悟天が首を傾げる。しかし悟飯は余裕の表情で────
「はっはっは!本当はもっと近くでもいいんだが…最初はこんなもんかな」
構える悟飯に悟天は念を押す。
「ほんと?ケガしない?」
「大丈夫さ。いいから思いっきり投げろ!」
ふーん、と呟くと悟天は投げるポーズをとる。
「じゃあいくよ!せえの……」
よっ!!!
その小石はまるで弾丸の如く悟飯に迫った。
悟飯は何とかすれすれで避けたが後ろの岩が派手な音を立てながら大きく崩れる。
「本当だすごーい!さすが兄ちゃんだ!!」
「わぁ…!お兄ちゃんすごい!」
悟天は尊敬の眼差しを向け、悟は拍手を送る。
しかし、当の悟飯は口を開けたまま呆然としていた。
いくら自分が修行をサボっていたからってここまで衰えているとは思わなかった。
いや、悟天のパワーが凄まじいのか。
「じゃあどんどんいくね!」
新しい小石を選ぶ慌てて悟天に待ったをかける悟飯。
新しく線を引きなおし
「やっぱりこの辺から投げてもらおうかな…」
と、場所を変更したのだ。そこからは快調だった。
悟天が投げ悟飯が避ける。そして悟は地面に絵を描いていた。
「よーし慣れてきた!もっともっと近づいていいぞ!!それと悟!!!」
いきなり名前を呼ばれビクリと身体を震わせる。
そっと振り向けば手招きしている兄。
「お前も加わっていいぞ!」
待ってましたとばかりにぱぁぁ、と嬉しそうな表情を浮かべ駆け寄る。
そして悟天の隣に並ぶと一緒に小石を投げ出した。
悟天のよりスピードはないが時々変化球がくる。いい修行だ。
しばらくそれを続けているとピタッと悟天の手が止まる。
「? どうしたの悟天?」
「ねえ、僕も兄ちゃんみたいになってもいい?」
思わず悟飯も一時停止する。
「え?兄ちゃんみたいにって…何がだ?」
「そのスーパーサイヤジンってやつ」
嬉しそうに悟飯の髪を指差す悟天。その言葉に悟飯は胸を張り笑った。
「はははは!なってもいいけどそいつは悟天にはまだちょっと無理かな。超サイヤ人っていうのは相当修行してだな…」
そんでもって……っと言いかけた瞬間────────
ボッッッ!!
悟天はいとも簡単に超サイヤ人になって見せた。
思わず口をあんぐりと開ける悟飯。そして気まずそうな悟。
「ご…悟天……。お、お前それいつごろから……?」
「んー、忘れちゃった!」
いつもの調子であっけらかんと笑う悟天に思わず悟飯は冷や汗をかく。
「し、信じられない……。兄ちゃんも死んだお父さんも超サイヤ人になるのには相当苦労したんだけどな……」
そしてはっ、と悟の方を振り向く。
悟は俯いたまま今にも泣きそうな顔をしていた。
「悟は…超サイヤ人になれるのか?」
悟の身体が震え大きな瞳から雫が零れ落ちた。
その様子に悟飯と悟天が慌てる。
「わ、私…まだスーパーサイヤ、ジンっていうのになれな、く…て………」
最後の方は嗚咽でよく聞き取れない。
まずい事を言ってしまったと悟飯は後悔した。
「な、なれなくて普通なんだよ!悟は悪くない!!だから泣き止め、な?」
今もなお泣き続ける悟悟を抱っこして頭を撫でる。
すると少しは落ち着いたのか鼻をずびっとならした。
悟天も慰めようと必死だ。
「これから出来るようになるよ!悟なら出来るよ!!」
その言葉に悟は救われた。まだ自分は強くなれるのだろうと信じるしかなかった。
それから少し時間を挟んだあと悟飯と悟天が組み手を始める。
もちろん悟は見てるだけ。しかし、動体視力の良い悟はその動きは見て取れた。
場所をどんどん移動していく二人を追いかけながらその様子を伺う。
そのうち悟飯は空中へと飛び立った。
「ずるいよ兄ちゃん、空飛ぶなんてー!」
「飛んだら追いつけないよ……」
ぶーたれた言葉が飛び交う双子。それに唖然とする悟飯。
「な、なんだお前達…。もしかして空飛べないのか?悟天に限っちゃ超サイヤ人にもなれるのに…」
「「飛べないよー」」
見事に双子の声が揃った。
そしてポツリと悟飯は呟く。
「……順序がでたらめだな」
すると、遠くからエンジン音が聞こえてきた。
「あ…あれは…まさか……」
遠くからだったがビーデルの横顔が確認できた。
「や…やっぱり…。……どうやらもう一人空の飛び方を教えなきゃいけないようだ…」
がっくりと肩を落とす悟飯。そして悟天と悟の元へと飛び降りる。
「お前達、兄ちゃんと同じ学校に通ってる女の人が来るけどその人にはあんまり強いとこを見せちゃ駄目だぞ」
悟天の肩をがしっと掴むと念を押した。
「特に悟天、超サイヤ人には絶対になっちゃいけない」
すると悟天は首を傾げ
「不良だと思われるから?」
その答えに悟飯は苦笑するが、あながち間違ってはいない。
「うん…まあそんなところだ。あと悟」
俯きがちの顔を上げる。さっきまで泣いていたせいで鼻が真っ赤だ。
「悟は気のコントールが上手いと思う。きっと上達するさ」
だけどあまり見せないようにな。と背中を押す。
悟は俯きながら弱々しく頷いた。
そして帰り道。三人は森の中を走っていた。
「でも兄ちゃんはすごいなー!一回も当てられなかった!!」
「悟天だって凄い格闘技の才能があるぞビックリした!兄ちゃん、そこまでとは知らなかったなー!」
その言葉に悟天はえへへ、と笑う。
「ばっちり修行すればお前も天下一武道会に出られるんじゃないか!?」
「ほんとう!?」
その顔は嬉しさでいっぱいだ。
「でもトランクス君の方が僕や悟よりもっと強いんだ!対決ごっこで遊んでるとね!!」
「本当か!?お、お前達そんなことして遊んでたんだ……」
「私も天下一武道会に出られるかな……」
悟が呟く。しかし悟飯はわかっていた。母が許すはずが無いと。
仮にも悟は女の子。そんな事させた時には発狂するのは目に見えている。
「お、お母さんに話してみたらどうかな」
今はこれしか言えない。でもきっと悲しい結果で終わるのだろうが。
そんなことも露知らず、にぱっと悟は笑い更にスピードをあげた。
これには悟飯も呆然とするしかなかった。
とにかく早いのだ。スピードなら恐らく悟飯以上────────
「悟と追いかけっこするといつも負けるんだよ」
悟天が口を尖らせる。パワーではなくスピードと気の使い方に長けているのかと悟飯は一人納得する。
悟も立派なサイヤ人のハーフだという事だ。
(こ…こりゃ、うかうかしてたら追い抜かれちゃうな……チビたちに…)
もっと修行しようと胸に誓う悟飯だった。