兄妹ゲンカの結末は

夕飯を食べ終わった子供達は部屋へと戻っていく。
悟飯は勉強をするために机へと向かい、その後ろで双子―――悟天と悟がじゃれあう。
それはいつもの風景。しかし、今日は少し違う様で。

「わあああああん」

いきなりの泣き声に悟飯は肩を震わせた。
何があったのかと振り向くとそこには罰の悪そうな顔をした悟天と何かを抱きしめながら泣き叫ぶ悟の姿が。
思わず悟飯は勉強の手を止め、二人に近づく。

「おいおい、どうしたんだ?」
「お、おにいちゃ…、ご、ごて…が……っ!」

嗚咽が混じりよく聞こえない。悟の頭を撫でながら悟天へと目線を向ける。
悟天は眉間に皺を寄せ目を逸らしながら、だって…と小さく漏らした。

「悟が悪いんだもん…。少し見せてもらおうとしただけなのに!」

少し語尾の大きくなった悟天の声に悟が動く。
いつもでは考えられない、キッと鋭い瞳を悟天に向け口を開いた。

「ち、ちゃんと普通に見せてって言えば…見せたもん!それなのに悟天ったら、ひ、引っ張るから…っ」

悟は腕の中にあるものをぎゅうっと強く抱えなおすとそれに顔を埋める。
悟飯は何を抱えているのか気になり悟に問いかけた。

「悟、それは?」

「…大事な、もの」

それから顔を離すと悟飯に抱きしめていたものを見せる。
それは可愛らしいクマのぬいぐるみであった。だが腕の部分が破れ綿が出てしまっている。

「確かそれ17号さんから貰ったものだったな」

こくり、と悟は頷く。
このぬいぐるみは誕生日プレゼントに17号から貰ったものであった。
悟はこのぬいぐるみをとても大事にしていたのだ。
しかし、今は痛々しい姿になってしまっている。

「なるほど。引っ張り合ったから破けちゃったんだな」

「悟が離さないからいけないんだ!」

「悟天が無理やり引っ張るからいけないんだもん!」

悟飯は直感的にやばい、と感じた。
普段喧嘩をしない二人だがたまに起こる衝突は凄まじい。
一回家を壊しかけた事もあった程だ。
何とか悟飯が場を収めようとしたその瞬間────


ダンッ


大きな音が部屋に響いた。
それは悟が悟天に突進し、押し倒した音である。
力は無くとも速さが加わればかなりの重さになる。
悟天は痛みに涙を浮かべながらも悟を突き飛ばす。
取っ組み合いの喧嘩が始まった。こうなってしまったらもう手のつけようもない。

「おいお前らやめたほうが…」

「悟天のばかああああ!」

「悟のわからずやっ!!」

ばたんばたんと揺れる家。
悟飯はそろそろ恐ろしい事が起きるぞ、と予感していた。
そして、悟飯の予想は的中する。

「悟天、悟!なーにやってるべか!!」

バンッと部屋の部屋のドアが開くと同時に響く怒鳴り声。
孫家最強ともうたわれる母、チチが鬼の形相で現れたのだ。
その声に双子はピタリと動きを止める。二人の顔は傷だらけであった。




「で、なんで喧嘩したんだ?」

部屋の真ん中で正座させられる二人。お互い目を合わせないようにしている。
悟飯は少し居心地の悪そうな顔で双子の隣に座った。

「悟天が…クマさんの腕を引っ張って破いちゃったから……」

「悟だってそのくらいで飛び掛ってくるんだもん…」

「そのくらいじゃない…!大事なものなの!!」

「だからって!!」

また喧嘩が始まりそうな二人に悟飯は苦笑するがチチの顔は険しくなるばかり。
その顔をみるや二人は口を噤んだ。

「つまり、だ。それは二人とも悪い」

きっぱりと言い放つチチに双子は目を丸くする。

「確かに悟の大事なものを壊しちまった悟天は悪い。でもな
悟、喧嘩をふっかけたのはお前だべ。だから二人とも悪い。違うか?」

そう言われてしまってはぐぅの音も出ない。
二人は気まずそうに横目で相手を見た。
お互い傷だらけ。やりすぎたかもしれないと段々罪悪感が押し寄せてきた。

「…悟、ごめん。痛かったよね」

「ううん、悟天。私もごめんね…。いきなり体当たりして……」

そう言うとチチはさっきの顔とは一転、優しい笑顔で二人の頭を撫でた。

「悟天ちゃんも悟ちゃんもいい子だ。ちゃんとごめんなさいが言えるんだもんな」

双子はちゃんと目を合わせると笑いあった。
悟飯もほっとした様に胸を撫で下ろす。
やっと普段の平和な孫家が戻ってきたと悟飯は心の底から思った。



翌朝、綺麗に直されたクマのぬいぐるみに笑顔を見せる悟。
そしてガーゼの貼られた二人の顔を見て笑うトランクスの顔があった。



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