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「ぅ……ん…?」

悟は静かに目を覚ます。
身体の妙な倦怠感、そして硬い凸凹の地面の感触に少し眉をひそめながら。

「! 悟!大丈夫か!!痛いところとかないか!?」

クリリンがそれに気づき慌てて悟の上半身を起こした。

「あ、あの…少しぼーっとします……でも痛いところはないです…」

目を擦りながら少女が答えるとクリリンはほっ、と息を吐いた。
クリリンの手を借りながら皆のいる場所へと進むとトランクスが今にも身を乗り出そうとしている。
悟は魔人ブウとべジータを見るや目を大きく見開き小さく悲鳴をあげた。
ピンクのゴム見たいなものに巻かれべジータがタコ殴りにされているではないか。

「ぐぐっ……!!」

「こ、堪えろトランクス…。お前がいったところでどうしようもない……無駄死にするだけだ!!」

かえってべジータを苦しめる事になる、そうピッコロは言うが自分の父親があんなにされていて
じっと待っていられるわけが無い。大好きな父を助けたくて────────

「イヤだああああああああ!!!!!!!」

トランクスは超化すると一目散に飛び出していく。
ピッコロが手を伸ばし止めようとするが届かなかった。

「トランクス君!僕もいくっ!!」

「悟天っ!!…ち、ちくしょう……」

トランクスに続き悟天も後を追ってしまう。
それを見て悟はクリリンから手を離した。少しふらつきながらも後を追おうと足に気を溜める。

「わ、私も…!!」

「おい悟やめろ!」

クリリンが静止するが悟の身体は宙に浮き二人の後を目指した。しかし────

「いかせんぞ!!」

思ったようにスピードがでない。まるで気が抜かれてしまったような感じだ。
そんな悟の肩を掴みピッコロが自分の方へと強く抱き寄せる。

「! はっ離してくださ、い…っ」

「駄目だ!お前が行っても状況は変わらない!!」

「でもおじさんが…トランクス君と悟天が!!」

なんとかピッコロの腕から抜け出そうともがくが力の差は歴然としていた。
普段の悟ならピッコロの事を恐がり逃れようともしないだろう。
それほど必死なのだ。初めてかもしれない、こんなに人を守りたいと思ったのは。

その言葉を聞いたピッコロが一つ呆れたような溜息を吐く。
そしてクリリンへ悟を渡すと言葉を漏らす。

「その気持ちだけは認めよう。だがな、気持ちだけで人を助けられると思ったら大間違いだ」

そう言うとピッコロの瞳は呆気にとられているバビディへと向かった。
そして眉間に皺を寄せると気を抑えながらそいつの元へと飛んでいく。

残されてしまった二人。クリリンは岩陰に悟を移動させるが、悟の表情は暗いまま。

「気持ち、だけじゃ……」

そんな事わかっている。
しかし、自分には力がないのだ。
どんなに修行しても強くならない。
皆に、追いつけない────

じわり、と悟の瞳から涙が溢れる。
自分は泣く事しか出来ないのか。誰も、助ける事はできないのか。
そう考えながらぽろぽろと涙を流す悟にクリリンは目線をあわせ苦笑した。

「ピッコロもあれだよなぁ、もう少し優しい言葉をかけてやればいいのにな。
だけどな悟、ピッコロの言う事も間違ってないんだよ。力が無ければ勝てない。でもな」

クリリンは優しくゆっくりと悟の小さな頭を撫でる。

「お前はお前のスピードでやっていけばいいんだよ。悟は俺の技すぐに覚えちまっただろ?」

そう、悟はマーロンと遊ぶ為にカメハウスへと足を運んでいたが、
クリリンに気円斬を教えてもらっていたのだ。
彼のより小さい円で威力も弱いがすぐに覚える事が出来た。

「気の使い方が上手いからかな…上達が早いんだよ。それにスピードだって凄い早いじゃないか。
だからさ、力が無いわけじゃないんだ。それは悟の個性なんだよきっと」

それを聞くと悟は俯いていた顔を持ち上げる。

「こんな、泣いて…る状況じゃないの、に……ごめんなさい……っ」

両手で顔を覆い隠し悟は泣く。
自分はなんてちっぽけな事で悩んでいるのだろう。
父親にも言われたばかりではないか。


お前は今よりぐんと伸びるさ。父ちゃんを信じてみ?



その言葉が悟の胸の中で木霊する。
悟は涙を拭くときっ、と前を見据えた。
その顔にクリリンは驚くが、悟が強い意志を持った事を感じ取っていた。



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