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「悟! はやくはやく!!」
「ま、まってよぉ悟天! すこし汚れを落とさなきゃ……っ」

のどかなパオズ山に声が二つ。一つは元気で無邪気な少年、もう一つは気弱そうな少女の声。
先に家の前に着いた少年は少女へと手を振り、それを見た少女は泥や葉っぱの付いた自分の服を軽く払いながら慌てて彼の元へと駆け寄った。

「ただいま!」
「あっ! たっ、ただいま!」

少年の服の汚れを少女が手で払っていると、ガチャリと彼が勝手に扉を開けてしまった。その音を聞き二人の母、チチが布巾で手を拭きながらパタパタと家の奥から歩いてくる。
玄関では彼女の次男と長女、悟天と悟が体中泥だらけになりながら笑っていた。その姿を見たチチは、腰に手を当て笑顔で二人を迎える。
「二人ともお帰り。さあ、兄ちゃんが帰ってくる前にお風呂に入って綺麗になるだよ!」
「はーい!」

 どたどたと音を立てお風呂場へ直行する二人を見送り、チチは茜色へと変わりかけている空を見上げる。

「悟飯ちゃんもそろそろ帰ってくるべ」

彼女はそう呟くと、静かに扉を閉めキッチンへと戻っていった。


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「ただいまー」
「お帰りにいちゃん!」
「おにいちゃんお帰り!」

悟飯が家に着くと真っ先に悟天が飛びついてくる。それに続き悟が悟飯の左手を握った。
いつもの光景だが、悟飯の表情は少し疲れたように感じる。そのことに悟が気づき、首を傾げ問う。

「おにいちゃんどうしたの?」
「……何でもないよ。初めての学校だったからちょっと疲れただけさ」

そう笑うと悟飯は悟の頭を撫でた。悟は嬉しそうにはにかみ、えへへと声を漏らす。

「悟飯ちゃんお帰り!皆、ご飯ができてるだよ!」
「わーい!!」
「おにいちゃん行こっ」
「わ! 二人ともちょっと待って…」

いつの間にか悟飯から降りていた悟天は兄の右手を、悟は兄の左手を引いた。
ふと、悟飯は二人の力の差に気付く。妹の方が自分の手を引く力が明らかに弱い。その力は地球人からしたらとんでもないモノだが、サイヤ人にしてみると、か細い灯火の様だった。
その事で悟が悩んでいるのを悟飯は知っていた。

なぜ自分だけこんなに弱いのだろう。
何をするにも一歩を踏み出すことが出来ず、自分の見慣れない物や出来事が怖い。
弱虫な自分が皆に置いていかれるのが嫌で、いつも涙が出る。

悟飯はそんな妹の姿をどうしても幼き日の自分と重ねてしまう。だから、なるだけ見守ってやりたい。
そう、思うのだ。

「どんっどん食べるだよー」
「いただきまーす!」

何十人分か数えきれない、湯気の上がるご馳走を前に花が咲くような笑みをした三人は、次々と食べ物を口へと運ぶ。
一息ついたチチもテーブルに着くと、そわそわと悟飯に今日の話を尋ねた。

「悟飯ちゃん、初めての学校どうだった?」

その言葉にぎくり、と手を止め頬を引きつらせながら苦笑いを浮かべた悟飯は「ま、まあまあでした……」と肩をすぼめた。
両隣の双子は食べる手を止めずに頭に?を浮かべながら悟飯の顔を見る。その視線に気づいた兄はあはは……、と乾いた笑いをこぼすのが精いっぱいであった。

ご飯も食べ終わり悟飯が風呂から上がると、双子は既にパジャマに着替えていた。
悟は目をこすりながらおねむモードに突入しており、悟天も目を細めながら大きな欠伸を一つ。

「なんだ二人とも、もう眠いのか?」

こくり、と同時に頷く。それを見ると悟飯は微笑みながら二人の頭を撫でる。
悟飯はやはり我が家が一番だ、と感じながら双子を抱き上げ布団へと運ぶのであった。
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