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「あのー」
トランクスが覆面を被った男、マイティマスクに近づき声をかける。
その声にマイティマスクは振り向いた。
「なんだ、サインか?小僧」
「あっちで綺麗なお姉さんがお話したいって言ってますけど…恥ずかしいから僕に呼んできて欲しいって……」
綺麗なお姉さん、という言葉に笑みを深くしたマイティマスク。
トランクスは男の手を掴み誘導させる。
「ど、どこだどこだ!?本当に綺麗なのか?言っとくが俺は好みにうるさいぞ!」
周りをせわしなく見回しながら男は次々と言葉を吐いていく。
そのとき────────
タンッ
音の割には重い一撃がマイティマスクに入った。
男が気絶した事を確認するとトランクスは男の足を持ちズルズルと人気のない場所へと引きずってく。
「おいっ、服を脱がせるぞ!」
悟天と悟は言葉も出なかった。
「で、でもさあ…ちっちゃすぎてバレちゃうんじゃない?」
「悟天もトランクス君もこの人より小さいよ…?」
服を剥ぎながらトランクスが口を開く。
「馬鹿だなあ、三人で着るんだよ三人で!」
「「三人で!?」」
双子は驚き互いに顔を見合わせる。一筋の不安が過ぎった。
マイティマスクを草むらに隠し、子供達はいそいそと肩車をし始める。
順番は下から悟天、トランクス、悟という並びだ。
「…悟天重くない?」
「うーん、重くはないんだけど納得いかないなあ」
一番上から悟が話しかけると悟天は口を尖らす。
真ん中のトランクスはムッとした表情で悟天を見た。
「しょうがないだろ、悟を一番下にする訳にはいかないし…」
「なんで?」
「だって仮にも悟は女の子だぞ。男二人持たせられるか」
(……仮?)
色々と納得がいかないままマイティマスクから剥がした服を着始める三人。
だが────
「丈が…合わないね」
ちょうど一人分、丈が合わなくなってしまった。
「どうするか…」
「あ、あの……」
降りた悟が手を上げる。視線が悟に集まった。
「二人で着ればいいんじゃないかな…?」
私一応ここにいちゃいけない人だし…と語尾だどんどん下がっていく。
今更ながら罪悪感が襲ってきたらしい。
悟の発言にそうか!と二人は手を叩いた。
再び肩車をする二人。悟天はまた自分が下な事に少し文句を言ってはいたが。
「バレないかなあこれで……」
悟も着替えを手伝いながら悟天と同じ不安を抱えていた。
そんな二人をトランクスは叱責する。
「バーカ、バレる訳ないだろ」
やがて着替えが終わる。その姿はなんとも変テコであった。
ぶかぶかの覆面と手袋、長い胴体、そして腹部らへんに開けられた二つの穴。
トランクスは「ぜーったいバレない!」と笑うが双子は微妙な心境だ。
「よし!早く戻るぞ!悟、また後でな!!」
「ちゃんと見ててね悟!」
「う、うん…。頑張ってねー……」
走り出す二人を見送る。
途中、トランクスの「おい、反対だ反対!」という声に悟の心は穏やかじゃなかった。
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悟は空を飛びながら武道会場を見下ろす。
こんな所でおもいっきり戦えたらきっと楽しいんだろうなあ…と溜息をついた。
それと同時に不思議な気を感じとる。
(なんだろう…今までに感じた事ない……神様、みたいな………)
不思議に思いながらも悟は観客席へと降りた。
突然空から現れた少女に周りは驚くもチチ達はそんなの慣れっこである。
「トランクス達いた?」
ブルマが話しかけると悟は肩をギクリと大きく震わせた。
そして出来る限りの笑顔を作る。
「あ、ああああの…と、トランクス君と悟天はあの…ご飯食べてくるって……」
言ってました…、と最終的には俯いてしまったがブルマは特別変には思わなかった。
悟がどもるのはいつもの事だし俯いてしまうのもいつもの事だ。
しかし、チチはその行動を不思議に思った。
「……悟、おめぇ何か隠してねぇか?」
悟はその言葉に勢いよく顔を上げ首を横に振った。
これだけは話せない。大事な友達と兄弟との三人だけの秘密だから────
「そうか…ならいいが……」
ほっと胸を撫で下ろした悟。嘘をついてしまった事に少し心が痛んだが。
つい言ってしまわないように大人しくジュースを飲んでいようと悟は縮こまった。