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泣き止んだ悟は悟空の腕に抱かれながらの観戦となった。
サタンが下がった所で悟空達は呆気に取られていた。

「…なんだかハデになっちまったな、武道会も……」

「武舞台も昔より広くなってんぞ」

「…そうなの?お父さん」

「ああ、オラ達が小さかった時よりすっげえ広い」


悟が悟空に問うと悟空はそう答えた。
その後ろでピッコロが悪態をつく。

「ふん……まるでくだらないショーだな…」



アナウンサーから少年の部についての説明が終わり、ついにその幕を開けようとしていた。
一方悟は悟空に抱かれながらキョロキョロ辺りを見渡している。

「お?どうしたんだ悟。誰か探してんのか?」

「あ、あの…お兄ちゃんがまだ……」

悟飯の姿が見当たらないと必死に悟空に訴える悟。
その様子にクリリンが悟の肩を叩く。

「まだ予選が終わってないだけだから大丈夫だよ悟」

その言葉を聞くと少し寂しそうな顔をしながら悟はクリリンに「そうなんですか…」と返した。


試合はどんどん続いていく。途中で泣いてしまう子や場外に落とされる子。
きっと痛いんだろうなあ、と悟は心のなかでハラハラしていた。



自分もあの場所に立っていたらどうなっただろうか



普通の子供の強さがわからない悟は自分があの中でどれくらい強いかなんてわからなかった。
しかし、確実にトランクスや悟天より弱い事はわかっている。

「…出たかったな」

ぽつり、と悟が零した言葉を悟空は聞き逃さなかった。

「なんだ、お前も出ればよかったじゃねぇか」

「……お母さんが駄目だって」

「…あ、あはは、納得」

自分の妻が悟に念を押している姿がはっきり浮かんで苦笑いしか出来なかった。
そこでべジータがやっと口を開いた。

「おいチビ、お前が出た所でトランクスと悟天に勝てる訳ないだろう」

ぴしり、とその場の空気が凍った気がした。
悟は溢れそうになる涙を堪えるが大粒の雫が頬を伝っていく。
クリリンはその様子に「そんなこと言うなよ!」とべジータに食って掛かるが当の本人は鼻で笑った。

「トランクスから聞いてるぞ。いつも対決ごっこしてもお前は二人に勝ったことがないと」

べジータは悪気があって言っているのではない、本当の事なのだ。
それを悟はわかっていた。

「おいおいべジータ、オラの子あまり泣かさないでくれよー」

未だに堪えてる悟の頭を撫でながら悟空が口を尖らす。

「ふん、俺は本当の事を言ったまでだ」

「それだって言い方ってもんが…」

「い…いい、んです……クリリンさん……」

服の袖で涙を拭った悟がクリリンを止める。

「本当の…事、だから……」

俯きながら小さな声で吐き出す。
それを見て悟空がいきなり悟を高く持ち上げた。

「わわ…っ!?」

「あのなぁ悟」

悟空はゆっくりと言葉を紡ぐ。

「そこで納得しちまったら成長は止まっちまうんだぞ。強くなりたいならもっと上を目指せ」

「うえ…?」

「そうだ。お前は決して弱いわけじゃねえ。自分で弱いと思っちまってるからそこから前に進めない、それだけだ」

「…じゃあ、もっともっと修行したら強くなれるの?」

「なれる。お前は今よりぐんと伸びるさ。父ちゃんを信じてみ?」

ニカッと悟空が笑うと悟も釣られてはにかんだ。

「よしっ!やっと笑ったな。笑った顔初めて見たけど可愛いなー」

悟空が腕を元の位置に戻すと同時に隣から「親馬鹿め…」とクリリンの溜息が聞こえてきた。
べジータは罰が悪そうにそっぽ向いている。
悟の笑った顔は何処と無く悟空に似ていた。


そんな事をしているうちにトランクスの出番となった。
周りからは「気の毒に…」とか「可哀想だよな8歳と15歳とじゃ」とか聴こえてくるが悟たちに取っては相手がとても気の毒に思えた。

そのとき────────

「トランクスー!そんなマヌケ面さっさとたたんじゃえー!!」

ブルマの大きな歓声が後ろまで響いた。それに続いて悟が小さな声で。

「トランクスくーん、ちゃんと手加減してねー…!」

「……多分それじゃ聴こえてないぞ」

ピッコロに言われ真っ赤な顔を悟空の胸板に押し付けた。


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