「じゃあ、せんせいはオニではないんですか…?」

「確かに角は生えるけど、鬼ではないなぁ」

二人、手を繋ぎながら歩く。
人通りが少なくなった所で慧音は自分の事を話した。
自分は半妖だという事、歴史に関する能力を持っていることを。

「道も能力を持っているんだな。人間でそこまで高い能力を持っているのは珍しいが…」

ちらり、と彼の方を見ればまた俯いている。
そういえば道はいつも下を見ながら歩いていたのを慧音は思い出した。
他の子供達と遊ぼうともせずに一人で俯いていたのだ。
するとぽつり、と道が話し始める。

「ぼく、このあいだから目の中の色がかわったんです。それから、うっすらと人のうしろに『ナニカ』が視えるようになって…」

だから人を見ないようにしていたのか、と慧音は彼を見た。
自分の力がよくわからず、制御もできず暮らしてきたのかと思うと心が痛む。

「親御さんは…?」

「お父さんたちはびょうきじゃないかって、色んなおいしゃさんのところへつれていかれます…」

それを聞きとりあえず今のところは否定的ではないようでほっ、とするが安心はできない。
人間は自分達と違う物を極端に嫌う。それは親子だとしても例外ではない。

そんな事を話しながら歩いていると、大きな鳥居の前に到着する。

「ここは…?」

「知らないか?博麗神社だ」

「はくれい…ってようかいがいっぱいいる……?」

怯えた瞳で道が恐怖を訴えてくるが、慧音は笑って彼の頭を撫でた。

「大丈夫だ。ここにはとっても強い巫女さんがいるからな。妖怪なんてすぐに退治してくれるぞ」

その言葉に安心したのか道の表情が少し緩んだ。
それを確認するとゆっくりと神社の階段を登っていく。

数分かけて登った先には立派とは言い難いがしっかりとした面持ちの神社。
そして、その前で掃き掃除をしている紅白の巫女服を纏った少女、博麗霊夢の姿が。

「あら、慧音じゃない。お参りに来てくれたの?お賽銭はあちらよ?」

「いや、今日は参拝じゃないんだ。尋ね人を探しているんだが…」

参拝ではないとわかった瞬間、霊夢の目つきが少し据わった。
そして道の姿を見つける。

「その子は?……人間、よね?」

あまりに見慣れない瞳の色の為、判断が少し遅れたらしい。
慧音は苦笑しながら答える。

「私の教え子の天蔆 道だ。れっきとした人間の子だよ」

道もおずおずと頭を下げて挨拶をする。
霊夢も軽く挨拶をし、慧音の方を見た。

「不思議な瞳の子ね。もしかしてアイツを探してる?」

「ああ。こういう事にはあいつが一番わかると思うからな」

話している二人を交互に見つめながら

(『アイツ』ってだれだろう…)

と少し不安がっている彼の頬に後ろから手が伸びてきた────。



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