君と僕で、はんぶんこ


「や、明王。今帰り?」

「…なんで行きも帰りもお前と顔合わせなきゃいけねえんだよ……」

「だってご近所さんだから!」


学校の帰り道、二人はばったりと遭遇する。
実はよくある事だが大体はゆかりが待ち伏せをしている場合が多い。
そして季節は初夏。じとっとした暑さが堪らなく不快だ。

「暑くなってきたねー、ちょっとコンビニでアイス買わない?」

「奢りだったらいいぜ。おねーちゃん」

にやり、と意地の悪い笑みを浮かべ不動は腕を組んだ。
その姿にぐぬぬ、とゆかりは唸る。

「こういう時だけお姉ちゃん扱いとかやめてよね…」

「年上は年下を可愛がるもんだろ」

「普段から可愛がってるじゃない」

「あんなもんはいらねぇ」

しばらく見つめあい沈黙。
先に折れたのはゆかりで溜息を一つ吐くと財布の中身を確認する。
ちょっとお小遣いがピンチだけれど二人分のアイスを買う余裕はありそうだ。

「しょうがないなー…。こんかいだけだからね!」

「サンキュー」

不動は上機嫌のまま足を進める。
ゆかりはそんな不動の後ろ姿を見てふ、と昔を思い出していた。
不動の家庭が崩壊したあの日、幼い自分は何も出来なかった。
否、幼くて理解が出来なかったのだ。
だから、小さく泣きながら自分に抱きついてきた弟分を抱きしめる事しか出来なくて。
それからだ、不動の顔から柔らかい笑顔が消えたのは。
その変化をゆかりは嘆き悲しんだ。でもそれと同時に心の底は変わっていないのだという確信もあった。



「ゆかりちゃん、おれ────」



「おい、なにぼーっとしてんだ。置いてくぞ」

不動の声に促されゆかりは慌てて歩き出す。
短い白昼夢を見ていたようだった。暑さのせいだろうか。

「ごめんごめん暑くてつい、ね」

「なんだ、とうとうボケたのかと思ったぜ」

「失礼な!」

そうこうしているうちにコンビニへと辿り着く。
扉が開けばそこは楽園のような空間。とても涼しい。
二人はアイスを売っている場所へと急いだ。

「んじゃ、選んでいいんだな」

「うー…いいけど……あれ?」

ゆかりの目にあるアイスが飛び込んできた。
それを手に取ると不動へと見せる。

「ダブルソーダだ!うわぁ、懐かしい!!明王、これ一緒に食べよっ」

「……お前、金減らしたくないだけだろ」

「そ、そそそんなことないよ!美味しいよソーダ!!」

ぎくり、とゆかりは身体を一瞬強張らせたが負けじと押す。
ダブルソーダは他のアイスより格段に安いうえに真ん中を折れば二人で食べられる優れものだ。
不動は呆れた顔をすると「しょーがねえ」と呟いた。

「今度はちゃんと奢ってもらうからな。覚悟しとけよ?」

「え、次も私が買うの…?」

「当たり前だバーカ」

納得はいかないが、今回はある意味ズルをしたようなものだしいいか。とゆかりはレジへと向かう。
会計を済まし、外に出ればまた纏わりつくような暑さが。

「うえー、天国がぁ……」

「んな事より早くアイス食おーぜ」

溶けるだろ、と急かせばゆかりはコンビニの袋へと手を入れる。
持ってみればこれまた冷たくて気持ちいい。

「てめぇちゃんと真ん中割れよ」「わ、わかった…!」

袋からアイスを取り出し割ろうとするゆかり。
だが、不安なのか手が小刻みに震えている。

「……」

「ちょ、これ恐い。明王お願い……っ」

「ちっ、貸せよ」

ゆかりの手から半分ひったくる様にアイスを奪い一つ息を吐く。
そして力をいれるとパキンっと軽快な音が聞こえ、アイスは綺麗に二つに分かれた。

「おおー!明王すごーい!!」

「ふん、これくらい当たり前だ」

二つになった内の一つをゆかりに渡し、自分の分を口に含む。
素朴なソーダの味と冷たさが口全体に広がった。

「んーっ、美味しいね!」

「ま、感謝するぜ。……ゆかり」

その一言に反応しゆかりが勢いよく振り向く。
お礼を言われるのも珍しいがなにより────

「う、うわぁ!明王が私の名前呼ぶのいつぶり!?最近ババァ、とかてめぇ、とかばっかだったから…!」

「ただの気まぐれだ。気にすんな」

お姉ちゃん感激!とゆかりが不動の頭を撫でれば迷惑そうな少し赤い顔。
アイスを食べているのに何故か少し熱かった帰り道。

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