三日ぶりの晴れもよう


雨が長く続き久しぶりにお天道様が顔を出した。
ちょうど今日は日曜日。ゆかりは自室のカーテンを開ける。
眩いほどの朝日に思わず目を細め笑った。
そしてパジャマのままベランダに出ると布団を柵にかけるのである。
パンパン、と布団を叩くと腰に手を当て「よしっ」と満足気に呟いた。

部屋に戻ろうとしたゆかりだったがふと下の道路を見下ろせば見慣れたモヒカン頭。
これからサッカーでもするのだろうか。脇にはサッカーボールが抱えられていた。
その姿にゆかりはベランダから身を乗り出し手を振る。

「あーきーおー!」

大声で叫んでみるが不動の反応は無い。聴こえていないのだろうか。
いや、こんな大きな声で叫んでいるのだ。聴こえないはずがない。
わざと無視されてるのだと思うとゆかりの額にピキリ、と一つ青筋が立った。
すると今度は意地の悪い笑みを浮かべもう一度叫ぶ。

「あきおちゃーん?お姉ちゃんの声が聴こえないんですかー?」

少年の足が止まった。そして勢いよく睨みつけるかのようにこちらへと視線を合わせてきた。
不動の額にも青筋がいくつか浮かび、顔は少し赤みを帯びている。
そして、つかつかと自分の家の中へと入ってくるのが見えた。

「あ、あれ…?」

この展開は予想してなかったとゆかりは冷や汗を一つ垂らす。
幼馴染な関係上、自分の親も不動の事はよく知っているのだ。
きっと下では母が挨拶をし、それに合わせ不動は会釈をしているのだろう。
しかし、下から上がってくる階段の音は妙に荒々しい。
これは怒っているぞ、と直感的に感じた。
どこかに逃げようとしてもここは自分の部屋。ここから出れば鬼のような不動とご対面。
いっそベランダから飛び降りるか、下は芝生だしと考えていると────

バンッ

大きな音と共に自室の扉が開いた。
音からして蹴っ飛ばしたのだろうか。ゆかりにとっては迷惑な話である。
そこには、むりやり笑みを作っている不動の姿が。
口角がとてもひくひくと動いている。ゆかりは何事も無かったの様に話しかけてみた。

「やぁ、おはよう明王!久々の天気は気持ちが良いね!!」

おまけにウィンクまでつけてみたが逆効果だったらしい。
不動の青筋が増えた。そして、つかつかと不動はゆかりの前に立つと思いっきり胸倉を掴む。

「外でちゃん付けしてんじゃねぇ!」

「あら、嫌だった?」

「きしょく悪いんだよこのクソババァ!!」

サッカーボールが不動の元から落ち、ゆかりの足元へと転がってきた。
しかしこの状況でそれを気にしてはいられない。
ゆかりはパジャマ。しかもボタンを2つほど外していた為下手をすると、見える。

「明王、明王」

「んだよ!」

「離してくれないと中、見えちゃうよ」

中、と聞いて不動の目線が思わず下へと向く。
そこには胸倉をつかみ引っ張った事で露になったゆかりの胸が目に飛び込んできた。
不動はそれに気づくと顔を染め上げバッと手を離した。

「もー、何今更恥ずかしがってんのよ。昔一緒にお風呂に入った仲じゃない」

「それはガキの頃だっての!!」

「今の明王も十分ガキですー」

べっ、と舌を出してみればしてやられたかの様な顔。
なんだかこの会話前にもやった気がするなあ、と思いつつ困った様に笑って見せた。

「明王もそろそろ思春期なんだからこれくらい慣れなさい!」

「うるせぇ!てめぇのなんか見たって嬉しくねえんだよっ!!」

「あ、それちょっと傷ついちゃう」

不動は頭を荒く掻くとそっぽを向いて小さく何かを呟いた。

「  」

「ん?なになに?」

「っ、その、わ……っなんでもねえ!!」

途中まで言いかけた言葉をゆかりははっきりと聴く。
こんな不動が可愛くて思わず勢いをつけて抱きしめた。

「あーもー!明王ちゃん可愛いよもう!!」

「や、やめ……っ!」

離れようともがく不動。しかしゆかりはがっちりと掴んでいて離さない。
不動が離れたがるのは恥ずかしさの他にもう一つ理由があった。

(……当たってんだよっ!)

身長差からして不動の顔はゆかりの胸あたりにくるのだ。
これはよくない。精神面的な意味でもとてもよろしくない。

「いい加減に、しろっ!!」

少し乱暴にゆかりを突き放す。が、彼女はとてもいい笑顔をしていた。
力だったら勝てない事もないが心が負ける。
こんなにべたべたされるのは嫌いだった。でも、いつからかこれが当たり前になっていた。
それは、不動にとっては良くない事。
いつまでも守られてる気がした。それはいけないんだ。

「明王?どうしたの?」

黙り込んでしまった不動を心配そうに覗き込む。
それにはっと我に帰ると不動はゆかりの足元に転がっていたボールを拾い部屋を出ようとした。

「あ、待ってよ明王」

「あぁ?」

「サッカーの練習するんでしょ、私も行っていい?」

その問いかけに不動は少し目を見開くがすぐに逸らした。

「…邪魔しないんだったらいいぜ」

「やった!じゃあ着替えるから待ってねー」

そう言うとゆかりはパジャマのボタンを外していく。
不動はぎょっとし慌てて部屋から出た。

「男の前で堂々と着替え始めんじゃねえよクソ女!!」

(照れてる照れてる)

まだまだ可愛い弟だ、と思うと勝手に口角が上がる。
数分後にはまた喧嘩腰な会話が続くのだろう。
帰ってくるまでには布団もきっとふかふかだと思うとゆかりは嬉しくなった。

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