タラちゃんに添い寝したい
そっ、と美佐は壁の穴から顔を出しあたりを確認する。
この隠し穴は姐御とも慕うブラックウィドーから教えてもらった、彼の部屋へ侵入するための秘密の抜け穴だ。
ぐるっと見回せば何本もの機械のコードが見えた。お目当ての彼の姿は見えない。
穴から出てみればそこは意外と暖かかった。そろり、と部屋を進んで行けば彼の背中が。
思わず気分があがり駆け出してみれば見事にコードが足に絡まり、おでこと床が痛々しいキスをした。
「なにやってるスか美佐」
「よ、夜這い?」
「そんな阿保面で?よく言うっス」
美佐が強く打ったおでこと鼻をさすりながら起き上がってみれば呆れ顔で腕を組む彼…タランスが目の前に立っている。
「あのー、手を貸してくれちゃったりとかー…しない?」
「甘えるんじゃないッスよ。どっか折れたわけでもあるまいし」
「ほら、鼻とおでこが真っ赤だしさー女の子だしさー」
「女は図太いから大丈夫っスよ」
「…そーですか」
仕方がないので自力で立ち上がってみれば眩しい程の発光。部屋が暗いせいかコンピューターの光が目に痛い。
「タラちゃん。今回はお願いがあってきました」
「嫌っス」
「何も言ってないでしょ!人の話を聞いて!!」
「どうせ小さいおつむのキミの事っス。寒いから一緒に寝てくれ、っスよねぇ?」
「すげぇ、タラちゃん変態!」
「今の会話の何が変態!?」
「まあ、合ってるんだけどね。さあ一緒に寝よう!」
美佐はタランスの手を引っ張りベッドへと向かおうとしたが────
「…ベッドどこ?」
「ないっス」
「な、なぜにWhy…!?」
「パタパタ犬の真似はやめるっス!アタチには必要ないっスから」
「じゃあタラちゃんはどこで寝るの?」
そう聞くとタランスはコンピューター前の大きな椅子を指さした。
近寄って見てみると結構ふかふかしていて座り心地がよさそうだ。
「これじゃ二人で寝れないね…」
しゅん、と落ち込む美佐にタランスは満足そうに頷き次は出口を指さす。
「さあ、とっとと帰るっス!!」
「あ、いいこと思いついた!!」
ほぼ同時にあがる声。
タランスは一気に不機嫌そうな顔になった。
「タラちゃん座ってすわって!」
美佐がはしゃぎながら椅子を叩く。この時点で嫌な予感しかしないが、しぶしぶとそれに従う。
タランスがその椅子に体を沈めると、その上から美佐が彼の上に座った。
「な、なにしてるスかアンタ!?」
「これなら一緒に寝れるかなーって」
「重いんスけど…」
「私が寝付いたらほっぽり投げていいから!あたたまるまで!!」
そしてそのまま目を瞑る美佐に眉間に皺を寄せため息を吐く。
彼女が寝静まったら本当に投げてやろう、と決意した瞬間だった。