決して報われない御伽噺
「ウシワカってさ、どれくらい先の未来が見えるの?」

桜餅を一口齧った彼女はいつも通りの口調でウシワカに尋ねた。
アオバと同じく桜餅を食べようとした彼の手がピタリと止まる。
ウシワカは神木村へ向けていた目線をアオバへを移す。アオバはもぐもぐと口を動かしながらもその瞳は大好きな村を見つめたままである。

「なんだい?視てほしい未来でもあるのかな?」

そう少し茶化すように言えば彼女の瞳がやっとウシワカを捉えた。
図星だったのか目線が泳いでいるアオバを見てウシワカはクスッと笑った。
アオバは慌てた様子で首を横に振る。

「ち、ちがうの!ちょーっと興味があるというか、その……」
「もしかして、ユーのファミリーについてかな」
「!」

見て分かるほどの動揺を顔に浮かべた彼女にウシワカは薄く瞳を開いた。

「それいうのは知らない方がいいってユー自身もわかっているだろう?」
「で、でも、」
「でも、じゃない。未来は変えられても人間の寿命は変えられない」

はっきりとそう言えばアオバはグッと唇を噛みしめ、俯く。

「……ウシワカは、心も読めるの?」
「読めないよ。アオバ君がわかりやすいだけさ」
「だって、私はどちらにしろ置いていかれてしまう。だったら前から知っておいた方が……」
「それはノーだよ」

間髪入れずに答えた彼に反論しようとアオバは勢いよく顔をあげる。
そして、アオバは彼の表情をみると目を大きく見開いた。
普段、飄々と涼し気にしているその表情は涙など一切滲んでいないのに、何故か泣いているように見えてしまう。
そんな彼に目が、離せない。

「知っていたとしても悲しみの大きさは変わらない」

『ウシワカ殿。いつもアマテラス様が無茶をさせてしまって申し訳ない』

「むしろ自分を責め続けるだろう」

『ウシワカどの、我らが慈母は、アマ、テラスさまは、ぶじ、ですか……』

「いつまでも、いつまでも……」

『ウ、シワカ……どの、どう、か、生きて、どうか……』

「……っ」

そこで言葉が詰まり、ウシワカはアオバをぎゅっと抱きしめた。
いきなりの事にアオバの肩が跳ねたが、自分を抱き締めてくる彼の手が震えていたので、アオバも静かに彼の背中に腕をまわす。
桃色のぬくもりに包まれながら、ウシワカの背中をぎこちなくぽんぽんと叩くと何故だか懐かしい感覚がして悲しくもないのに涙が零れた。
不思議に思いながらも、彼の悲しさが移ったのだろうと特に気にせずしばらく自分が悲しい時にミカン婆にやってもらったように背中を撫でていた。

(あの時助けられたら、君が妖怪になることだってなかったのに)



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タイトルは「 シュレーディンガーの恋」様より。
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