そして廻るは白銀の縁
未来を少しばかり覗き見る事が出来る能力。
この力で数十年前、とある『予言』を受け取った。


真っ白な雪が吹き荒れる極寒の地、カムイ。
そこに見慣れない影がひとつ降り立った。

「相変わらず寂しい風景だねここは…」

そう一人でごちたのは陰陽師特捜隊隊長、ウシワカ。
普段は都にいるはずの彼がカムイへ足を運んだ理由、それは────

「確か…ここら辺にいると思ったんだけど」

横殴りに吹き付けてくる雪の中に立つ桜の木。
花が芽吹くのはあと数年先だろうか。
その根元、少しだけ空洞が出来た所に雪以外の『白』が見えた。

「ユーだね?タヌキの妖怪というのは」

片膝をつき汚れてしまった毛並みに手を伸ばすウシワカ。
急に感じた温かさに妖怪はびくり、と小さく身体を震わせる。
その拍子に被毛の間から虚ろな瞳が覗いた。

「だ…れ……」

拙く、か細い声だった。
まだ言葉を話すことに慣れていないのか、寒さで上手く口が動かないのか。
……身体中の傷が痛むせい、なのだろうか。

「ミーの名前は……まだ言わなくていいかな。まだその時じゃないからね」

彼が驚きもせずそう言うと空洞へ手を差し込み、小さな妖怪を抱き上げる。
思った以上に軽くて、何も食べていないのだとすぐに悟った。

「ぁ……あ、はな…せ………!」

妖怪は小さく威嚇しながらウシワカの腕に噛みついた。
寒さとおそらく…怯えているのだろう。震えている牙は彼の白い肌には刺さらない。
しかし、この行動にやっとウシワカは表情を崩した。切れ長の瞳を少し開き笑ったのだ。
そして小さな、今にも消えてしまいそうなぬくもりを抱き締めるように腕に力を込める。

「大丈夫」

傷を労わるように彼の細い指が妖怪の震える身体を撫でていく。

「ユーはね、これから今以上に悩むだろう。自分の生き方、在り方、種族の違い、羨み。何十年もかけて葛藤していくんだ」

でもね、と優しくウシワカは言った。

「フレンドがたくさん出来て、一緒に旅をして、ユー自身で答えを見つけて、泣いて笑って───生きるんだよ」

この言葉をまたいつか会うであろうこの妖怪が覚えているかはわからない。
たが、たとえ生まれたのが惨劇の箱舟の中でも、本来だったら敵対しなくてはいけない存在であっても……彼女は。


「アオバくんは、お天道様に友達になってほしいと願われたんだから」


彼女が神木村で暮らす事になったらつけられる筈の名前を呼ぶ。
小さな白い狸はぬくもりに包まれながら瞳を静かに閉じた。



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