亡命する星々
空を見上げたつもりだったのに、そこには星のように光る石しかなかった。
もう何日空を見ていないだろうか。いつもの癖で上を見ても、何も変わらない色が続く。
「フリスク、ここは本当に地面の下なんだね」
手を繋ぎながら歩く小さな少女に言えば、小さく「そうだね」と返ってきた。
ここに生息している花達は、静かに揺れながら私達の言葉を反芻するかのように繰り返している。
ここにある花は言葉を吸収するのだと親切なモンスターに教えてもらったばかりだ。
「おねえちゃん」
声のする方へ顔を向けると浅葱色に光る花を見つめているフリスク。
彼女は静かにその花弁へと指を滑らせた。
「もし、もしもだよ」
「うん」
「……ここからずっと出られなかったら…どうする?」
フリスクは私の方を見る事もなく、そう問いかけた。
突然の言葉に思わず彼女と繋いでいる手に力を込めてしまう。
「…出られなかったら、かあ」
平静を装うような振りをして言葉を絞り出してみたけど、かなり上ずってしまった。
出られない。ずっと。友達のもとへ、家族のもとへ帰れない。
むしろ、ここから出られたところで私のいた世界と同じとも限らない。
だって、エボット山など聞いたことがないのだ。いや、日本じゃないからかもしれないけど。
「あまり、考えたくないかな」
本音。小さい子の前だからあまり格好悪い所を見せたくないのだけど、
あまりこの事を考えると────発狂しそうになってしまう。
「じゃあ、質問をかえるね」
そう言いながら私の方を向くフリスク。
いつも閉じられたかのように細い瞳が少し光を灯し、私を捕える。
「ずっとずっと、ボクと一緒にいてくれる?」
その顔は、いつものフリスクと少し違った…気がした。
少なくとも私はその瞳に『狂気』を感じてしまったんだ。
薄く笑う彼女から目を逸らせない。まるで、世界の絶望を見てきたような、何もかも悟ったような。
息が詰まって頭がくらくらしてきた。視界で揺れる浅葱色が答えを急かすようにフリスクの言葉を繰り返す。
そう、私はあの時、
「 」
なんて言ったんだっけ?
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タイトルは「 シュレーディンガーの恋」様より。