守らなければいけない存在と私
後ろを確認しながら急いで道を引き返す。
Friskの体力がもう少ない。確かあの暖かい光に触れれば傷も痛みもすっかり治るはずだ。
彼女を置いていくのは忍びないが、担ぎながら進んだとしてもパズルだらけのこの部屋じゃ共倒れするだけ。
ここら辺のモンスターたちはほぼ友達になってくれたはず。でもこの先はまだわからない。
最初に出会った羊の様なモンスターだって私たちの事を快く受け入れてくれたが────私はまだにわかに信じきれないのだ。
Friskの姿が完全に見えなくなり、リカは心細さを感じながらも走る。
この世界が全く分からないからの恐怖は確かにあるが、なによりもFriskを守りたかった。
リカには年の離れた妹がいる。どうしてもFriskと妹が被るのだ。
頼ってくれるところも、懐いてくれることも、笑いかけてくれることも、全部。
息が切れてきた頃にやっと最初にみた光が見えた。
リカは安堵の笑みを浮かべしゃがみ込み、それに手を伸ばす。
暖かな光に包まれるように身体が軽くなった。きっとFriskの体力も戻っているはず!
急いで彼女の元へ帰ろうと立ち上がり一歩を踏み出したはず───だった。
「…?」
妙な感覚に襲われリカは自分の心臓部分をおさえる。
ふわり、と何かが胸から出てきた。薄いピンクのハートだ。
「なんだろこれ…?」
するとそのハートが振動し始めた。それと同時にリカの心臓が大きく波打って息が詰まる。
「ぐ……っ!?が、あ……っ………っ」
あまりの苦しさにリカは思わずその場に倒れ必死に息を吸おうとした。…無駄だった。
ハートの振動がピタリと止まり『パリンッ』とそれが砕ける様を目にした瞬間リカの視界は真っ黒に染まる。
意識が遠のいていく中、聞いたことのない声が聞こえた。
『リカ。君はFriskと離れすぎたら死んでしまう。彼女を守りたいと願うなら────決意を胸に抱き足掻き続けるんだ』
『………この世界に存在するはずのないバグ、リカ』
++++++
「お……ちゃ……おねえ……ちゃ」
「う、うう……?」
リカの耳に誰かの泣きそうな声が届いた。
目を開ければFriskが目に涙をいっぱい溜めて彼女の顔を覗きこんでいる。
「Frisk…?」
「おねえちゃん!よかった…おきて、くれたあ………っ!」
Friskはほっとしたのか溜め込んでいた涙をぽろぽろとこぼし始める。
リカは急いで起き上がり近くに置いてあった自分の鞄からハンカチを取り出すとFriskの顔を拭いてやる。
「そうだFrisk!身体の方は大丈夫!?」
「う、うん。いきなり身体が暖かくなったら傷も治って…そうしたらおねえちゃんが横に落ちてきたんだ」
鼻をずびずびさせながらFriskは言う。
彼女の言葉にリカは少し違和感を覚えた。
「横に落ちてきた…?」
「そう。びっくりしておねえちゃんを呼んだり揺すったりしたけど起きなくて…しんじゃったのかと、おもって……っ」
また涙を溢れ出しそうなFriskをリカは優しく抱き締める。
「心配させちゃってごめんね。大丈夫、もうFriskを一人にしないよ」
自分の腕の中で何度も頷くFriskを見て守らなくちゃいけない気持ちがこみあがる。
でもあの時、頭の中で響いた声が言った事が本当なら───
もしかしたら私は、この子の為に何も出来ないのではないか。
(決意を抱けって言ったって…足掻けって、存在しないはずの……私は)
今になってこの知らない世界が怖くなった
思えば自分たち以外の人間に出会っていない。
大人になりきっていない自分が本当にこの子を守っていけるのか。
「Frisk……大丈夫私が守るから!」
(Frisk……ごめん、私あなたを守れないかもしれない)
口から出た言葉と心の中の言葉、どちらが彼女にとっての正解なんだろう。
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タイトルは「rim」様より