優しい人に出会えたことで、あなたの人生が変わります。


その日はあまり体調が良くなかった。

子供かと言われるかもしれないしじゃあなんで外にいるんだとも言われそうだけど、いつもの猫達にご飯あげないとという勝手な使命感に襲われたからだ。
熱はない。ただ酷い頭痛と少々の吐き気。夜には熱が出るかもしれない。
俺が風邪ひくと他の兄弟も何故か一緒に風邪ひくから嫌なんだよ。みんな前日まではピンピンしてるくせに。
逆も然り、兄弟の誰かが風邪ひくと俺もひくからあまり言えないんだけど。

無事に路地裏の任務は完了。さっさと帰って寝よう、そう思った途端────

「……!?」

くらり、と一瞬目の前が歪んだ。
やばい、結構症状進んでる…?こう言うと厨二くさいな。
それよりも少し休んだ方がいいかもしれない。近くにベンチは…ない。
だからと言ってここでしゃがみこめば色んな人間にみられる。それは死んでもごめんなんだよ。
しょうがないのでおぼつかない足取りで路地裏に戻る。
さっきの猫達はもういない。現金な奴らめ。

壁に背を預ければずるずると力が抜けていく俺の身体。
そしてぺたん、と尻が地面についた。日が当たらないせいかコンクリートが異様に冷たく感じる。
でもその冷たさが気持ちよかった。……熱出てきたのかもしれない。
帰ったらあいつらも熱出てんだろザマーミロ道連れだ。

元々暗い路地裏だけど、俺の前に一層暗い影が差す。
誰かが自分の前に立っている。そしてしゃがむような地面のこすれる音が聞こえた。
正直顔を上げるのもだるかったが、変な人間だったら困るのでチラリ、と上目で前の『それ』を見る。


驚いた。驚きすぎて思わず勢いよく顔をあげてしまった。
だって夢かと思うじゃん。自分の前にトト子ちゃん以外の女の子が至近距離で顔を覗きこんでるなんてさ。

「あっ、大丈夫ですか…?」

目の前の女の子は首を傾げ心配するように眉を下げる。
こっちが何も話せずぽかん、としていると彼女は慌てたような仕草を見せた後に肩から下げていた大きなカバンを漁りだした。そして何かを見つけたような顔をすると一つのペットボトルとハンカチ。

「顔色悪いですので、これ飲んでください。まだ口付けていないので。ハンカチもよろしかったら」

おっとりとした雰囲気を漂わせてはいるが、意外とテキパキ喋る女の子だ。
そんな事を考えながらおずおずとペットボトルとハンカチを受け取る。

「…お家まで送りますか?」

「…はっ!?あ、いや、大丈夫……」

やっと出た言葉はあまりにもぶっきらぼうだった。だから童貞だのなんだの言われるんだ。
だるいと訴える身体に無理やり鞭を打ち、立ち上がる。すると彼女の顔に少し安心の色が宿った。

「無理はしないでくださいね」

今日初めて会ったのになんでこんなに親切にしてくれるんだ。
読んだことはないけど少女漫画ってこんな感じ?異様にドキドキする。慣れてないんだよ本当に!

「じゃ…ありがと」

やっぱり最後まで俺はぶっきらぼうで、彼女の顔を見れないまま歩き出す。
彼女の視線が背中に刺さるのをひしひしと感じた。
スポーツドリンクが入ったペットボトルは冷たいはずなのになんでだろうね、とても熱くてさ。
ここから何かが始まる予感しかしないのは自惚れすぎだろうか。


あと家に着いたら兄弟全員寝込んでた。
やっぱりな、ざまぁ。………俺もな。

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