思い出はつづくもので


「こ、これが噂のスタバァ……!」

「了子ちゃん、そんな所に立ってると邪魔だから進んで」

目を見開き唖然としながらスタバァの看板を見上げる了子をトド松が手を引く。
彼女には輝いて見えるのか「眩しい!何か色々眩しい!!」といつもとは違うリアクションをしているようだ。

「ていうか珍しいね?了子ちゃんがこういうお店に来たいなんて」

「あー…えっと……会社の話題に…入れなくて………」

暗くずんっとした空気が彼女を俯かせる。
それを見たトド松はそうかそうか、と曖昧に笑った。

「じゃあ今日は僕がちゃんとエスコートしてあげる!」

「……いくら払えばいい」

「ちょっと!人を悪者みたいに言うのやめてくれる!?誤解されるから!!」

「だってお前なんだかんだ言っていっつも私に奢らせるくせに」

「それは兄弟と一緒の時だけ!ちゃんとデートの時は奢るよ」

「一番クズだろそれ!!!あとデートじゃない視察だ」

「……なんの?」

「………わかんない」

そんな会話を繰り返しながらレジへと進む二人。
了子の方は緊張からか足と腕が同時に出ている状態だ。

「ご注文をどうぞ!」

「僕はこれにー………」

トド松が魔法のような長文をすらすら言うものだから思わず了子の視線がメニューと彼の顔を行ったり来たりしている。
その顔色は少し、青かった。

「じゃあそちらの方どうぞ!」

「ぅえあ!?あ、えっと…私は……」


やべえ、まず横文字がよくわかんないし味も知らない。


冷や汗をだらだら垂らしながら「うー…あー…」しか言えず唸っていると不意に誰かに肩を抱かれる。

「じゃあアイスココアにホイップ、チョコソースかけてください。あとチョコチップ追加で」

「かしこまりました〜」

少し上を見上げればよく見知った顔がある。
…近すぎてちょっと頬が赤くなってしまった、と後に彼女は後悔した。


********

席に座り大きな息を吐く了子。
トド松は向かいで自分のドリンクを撮っていた。

「助かったよトド松…てか最初からやってよトッティ……」

「そういうのは自分でやらなきゃ〜。もう大人なんだし」

「くっ…ニートに言われた」

「働いてるから偉いってわけじゃないもんねぇ?」

「嫌味かよ」

了子がストローに口をつければ中で甘さが広がる。

「おいっしい……」

「そう?よかった。了子ちゃん小さい頃からココア好きだしチョコも好きだもんね」

「……覚えてたの?」

「そりゃあずっといるからね。まあでも…」

一旦言葉を区切ったトド松は身を乗り出し了子へと顔を近づけた。

「あの赤い顔を近くで見れたのは初めてだったけど?」

少し含みのある言い方に彼女はまた少し顔が赤くなるのと罪悪感が顔に出るのを感じる。

「……みんなしないな。あの頃の話」

「了子ちゃんの傷が癒えるまで僕たちもトト子ちゃんも話すつもりはないよ。あんな盲目的で痛々しい恋の話なんて」

「言ってる!!!!抉ってる!!!!!!!」

「これ位は許してよ。あの時僕等だって我慢したんだから」

優雅にカップに口づけるトド松はどこか愁いを帯びていて、それ以上彼を見れなかった。

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