手加減してください
珍しく仕事が早く終わったから少し体を休ませようと思ったのが1時間前。
まだ間に合うからとタオルや着替え、シャンプーとかを用意し始めたのが45分前。
なんとなく「神田川」を口ずさみながら上機嫌で銭湯に向かったのが20分前。
その銭湯の前で六つ子と出会ったのが5分前。私の顔はきっと引きつっていたに違いない。
腐れ縁もここまでくると気味が悪いくらいだよ。

番台さんにいつも通りのお金を渡し女湯へと入る。(おそ松が「了子は男湯じゃねーの?」って言ってきたので殴っておいた)
遅い時間だからかあまり人がいない。というよりほとんど出る人ばかりでこれは……────

「貸切かぁ!?」

誰もいなくなった女湯で思わず叫んでしまった。
貸切のお風呂とか贅沢すぎない!?あぁ…神様が普段頑張っている私に素敵なプレゼントをくれたんだ……。

さっそく身体を洗ってから湯に浸かる。
少し熱めのお湯に包まれる感覚に不意に息がこぼれた。
デスクワークが多いから足がむくむんだよね…立ち仕事と同じくらい足がだるい。
ゆっくりとマッサージをすれば自然と顔が緩むのがわかった。
その時────────

「ちんこ当てゲームっ!!!!」

……おいまて、今何か聞こえちゃいけないものが鼓膜に響いたぞ。
いやきっと気のせいだ。そうに違いない。疲れてるんだよ私。
でも幻聴ではなかった。チョロ松の突っ込みがこっちまで聞こえるから。

「これ誰のちんこ?」

馬鹿じゃねえの!?六つ子以外の声もしてるという事は男湯の方はけっこう人いるんだな。
というか本当に脳みそ小学校で止まってるね?おそ松だけかと思ったけど皆も大概だね?
逆に女湯は私だけでよかったかもしれない。知り合いがあんな事始めたって知られたら私が白い目で見られる。

「ハタ坊立派になったね〜」

ハタ坊デカいの!?それにもびっくりしちゃったよ!!!!
あんなに小さかった…いや、まだ小さいけど。でもデカい…何言ってるかわからなくなってきた。

このよくわからないクイズはどんどん酷さを増していく。
こっちは癒しを求めてきたのになんで下ネタ通り越した何かを聞かなくてはならないのか。
理不尽な怒りが私の中に溜まっていく。
気がつけば私は男湯と女湯を区切る壁をよじ登っていた。ここの銭湯は壁が結構低い。ギリギリ届く程度だけども。

「くぉらあ!!!!この馬鹿六つ子どもぉっ!!!!!!」

私がひょっこりと顔を出し怒鳴ればびっくりする男性客たち。
ごめんな、貴方達に罪はない…と言いたいがあんたらも悪乗りしてたなそういや。

「了子!?ちょ、それ覗き!犯罪!!セクハラ!!!」

「こっちが間接的にセクハラ受けてんだよ!!!逆に!!!!風呂ぐらいゆっくりさせろ!!!!!」

「了子ちゃんおっぱい見えてる!すっげー!!!」

「マイフレ……っ!了子!頼むから前隠してくれ!!!!」

「そんなのどうでもいいんだよぉ!!!」

「よくないからね?だから女子力無いとか言われるんだよ」

「うっせバーカ!!!!」

私が投げた桶が六つ子の誰かにヒットした。

「なんで俺ぇ!?」

「あ、チョロ松ごめん。皆裸だから見分けつかなかった」

「結局了子は服で俺達を判断してたんだ。まあ、一番クズなのは俺だけど」

「一松は体型でわかるから安心して」

「えっ」

「次また下ネタ全開させたら全員に桶投げるからね?覚悟しとけよクソが」


ちょっとカッコつけてそんな台詞を言ったらチョロ松が私めがけてタオルを投げてきた。
そのタオルは見事に私の顔に命中。バランスを崩した私はズルズルと壁を落ちていく。
そしてあいつが吐き捨てるように言った。

「んな無防備な姿俺ら以外に晒すんじゃねえよこの男女ぁ!!!!!!」

…チョロ松は私の事を心配してんのか貶してんのかどっちだよ。

そんな銭湯での事件は結構頻繁に起きているのであった。

- ナノ -