一緒にいた、その理由
腕にある時計をふと見たら1時を少し過ぎた所だった。
休み時間はあれど、本当に5分位しかない。
おにぎりを食べながらPCに向かっているこの様はなんと滑稽な事か。
労基に訴えたらなんとかなるかしら…と頭で考えていたらスマホにLINEの通知が光る。
一旦おにぎりを置きそれを手に取って器用に操作するのはもう慣れたものだ。
また六つ子からの飲み会したいあれか…?と勘繰るがその差出人に一瞬目を見開く。
「十四松からじゃん…」
ぽつり、と思わず声を出してしまった。
グループの中では喋れど個人的なやりとりは少ないのが十四松。
内容はと言うと
『今日のおしごと何時におわりますか』
思わずスマホを落としそうになった。
長年の付き合いの中でも十四松に敬語を使われたことなど無いに等しい。
悪いものでも食べたか?頭でも打ったか?
そんな失礼な事しか浮かばなかったが、はっと我に返り時計もう一度を見る。
何とか今のノルマを済ませば帰れるはずだ。追加されたら終わりだけど。
なんかあったのは間違いないから絶対帰ってやる。
そんな気持ちを込めて指を動かした。
『19時までにぜってえ終わらせるから待ってて!!』
****
「お、終わった…」
19時を少し過ぎた辺りにふらふら、とタイムカードを押す。
時間すぎちゃったよどうしよう。
急いでタイムカードを押してビルから出ればすぐに黄色が目に入った。
「じ、十四松!ここまで来てくれたの!?てかごめん、遅くなっちゃった…」
「んーん、大丈夫!ぼくが呼び出しちゃったから」
待て、十四松ってこんなに大人しかったか?
感情が高ぶると一人称が変わるのはわかるがこんなにしおらしかった?
「えーと、どうしよう。私の家行く?」
「そうだねー。あまり、聞かれたくないから…」
これ相当深刻そうだけど大丈夫なのか。
夜食やお酒やジュース、お菓子を買い込んで自宅のカギを開ける。
自分が諸々用意してる間、十四松は大人しく正座して待っていた。
小さなテーブルに向かい合うように座りコップにお茶を注ぐ。
そしていただきます、と二人で簡単な夜食を食べ始めた。
その間もいつものがっつきは何処へやら。下手したら自分より食べ方綺麗なんじゃないか。
ごちそうさま、と手を合わせ流しへ食べたものを入れる。
もう一度同じ場所へ戻りビールの缶を開けた。
「十四松はジュースで良いの?」
「うん。酔っちゃうと多分話せなくなっちゃう」
「そうか」
そんなに大事な話なのか。
一口ビールを喉に流し込み、改めて十四松へと瞳を向ける。
「んで十四松さん、どうした?いつもと違い過ぎて逆に怖いよ」
素直に言えば彼は少し視線を下に落とし、小さく口を開いた。
「あのね了子ちゃん」
「おう」
「女の子のよろこぶ物って、なに?」
「……へ」
口に運ぼうとしたビーフジャーキーはぽとり、とテーブルに落ちる。
思わず返事をしてしまった。
「女の子の?何、トト子ちゃんにあげるの?」
「ち、ちがう!あのね、女の子。トト子ちゃんじゃない女の子!!」
「落ち着いて十四松!最初からゆっくり話そう」
慌てる十四松の頭に手を置いて落ち着かせる。
少し撫でれば落ち着いたように話し始めた。
「この間会った女の子でね、その子死のうとしてて、ぼく助けたんだ」
「…」
「でもその子腕に傷があって、包帯巻いてて…包帯だと目立っちゃうから何か可愛い隠せるもの無いかなって。
ぼくじゃあよく、わからないから」
「あー…」
なるほどな。
その子の傷が自然にできた「傷」じゃ無いのを十四松も分かってるのか。
確かに包帯じゃ感づかれやすいし可愛いやつな。可愛いやつ……。
「十四松さあ、それ私がアドバイスしちゃっていいの?」
「え、なんで?」
「知ってるでしょ、私が昔っから洒落っ気ないって」
それで何回おそ松にからかわれた事か。
どうにもアクセサリーだの服だのに興味なさ過ぎて残念ながらそっち方面は疎い。
「あんたらだって私の事女として見てないじゃん。だから私じゃない方が…」
「…了子ちゃんじゃなきゃ」
「え?」
「了子ちゃんじゃなきゃ頼めないんだ。だって、ぼく達の事をずっと見てきた女の子はトト子ちゃんと了子ちゃんだけ。
特に了子ちゃんは『友達』としていっちばん大切な女の子だから」
そう言って真っ直ぐ自分を見つめてくる瞳に何か懐かしいものを感じた。
大きくなってから忘れていた。そうだ、十四松はこういう子だった。
嘘つけない子なんだ。人にも自分にも。
「…ごめん」
「えっ!?何で了子ちゃんが謝るの!?」
「わかんないならそれでいいよ。とにかく可愛いね……」
ふむ、と考え一つ思いつく。
「十四松、野球好きじゃん。スポーツ選手ってなんか腕に付けてなかったっけ?」
「えーと、リストバンド?」
「それだ。それあげればいいんじゃない?十四松があげたって感じもするし」
「? なんでぼくがあげた感じにするの?」
「好きなんでしょ?その子の事」
そう言った瞬間、彼の顔はみるみる赤くなっていき腕をバタバタと動かし始めた。
「え、え、なんで、なんで了子ちゃん知って」
「様子みりゃあわかるわ。幼馴染舐めんなよこのやろ」
了子がニィっ、と笑えば十四松は照れながら頭をかく。
「そっかー…やっぱり了子ちゃんに言ってよかったあ。大好き!」
「ありがたいけど、それは彼女に言ってあげる言葉だよ?私に言うんじゃなくて」
軽くデコピンをかませばだらしなく笑う彼。
幼馴染に好きな子が出来ると嬉しい反面少し寂しい気持ちもするの、初めて知った。
「じゃああの子にリストバンドあげる!明日買いに行く!!」
「そっかー。着いていきたかったけど明日仕事だから無理そうだな…」
「ううん!ありがとう了子ちゃん!!すっげー助かった」
「そうか、それならよかった」
思わず自分もその明るい笑顔に釣られて笑ってしまった。
彼はジュースを飲み干すと嬉々として帰っていったのだ。
それから毎日のようにLINEを受け取った。
中々にいい感じに進んでいるらしく、私も頑張んなきゃなーとか呑気に思っていたんだ。
おそ松から連絡をもらうまでは。
つづく
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タイトルは「ひよこ屋」様より