長すぎて変わりやしないよこの関係

ぐちぐちとした上司のお小言。
ぺちゃくちゃと話される女同士の戯れ。
これ、結構うんざりするもんだわ。そんな事を思いながら仕事に励んでいます。



今日も結局遅くなってしまった。
腕時計に目をやれば既に深夜0時は回っていて思わずうわぁ、と声が出てしまった。
OLと言っても派遣社員の立場は低い。
低いくせに正社員と同じ、下手したらそれ以上の仕事を任されるんだからたまったもんじゃない。
もっと賃金増やせよコラ。

帰ったらいつもシャワーで済ますけどちゃんと湯船に浸かろう。
明日は休みだ、冷蔵庫でビールも冷えていたはず。
そう考えながら、マンションの自分の部屋のカギを開ける、はずだった。


────すでに開いている。


一瞬泥棒が入ったのかと身体を強張らせるが、中から聞こえる騒がしい男共の声にほっと安堵の息を漏らすと共にピキリ、と彼女の額に青筋。
夜遅いので大声は出せない。中にいるやつらめっちゃ出してるけど。
彼女はそうっと玄関に入り靴を脱ぐ。そして傍にあった長めの靴ベラを持ちリビングへと向かう。
廊下とリビングを妨げる扉を開ければ充満する酒の匂い。そして六つの同じ顔の男たち。
彼女に気付いた男の一人が陽気な声をあげる。

「よぉ!お帰り了子!!」

彼女は無言を貫きながら持っていた靴ベラで一人一人の頭を思いっきりぶん殴った。
本当にやめてよこんな地獄みたいなサプライズ。勝手に合鍵作りやがって。


****

「いってーな!叩く事ねえだろ!?」

六つ子を叩いた後、了子は別室にて早々に着替えを済ませた。
スーツからTシャツスウェット。一番楽な格好だ。

「叩くだろう普通。働き疲れて帰ってきたのに家でニート達が酒飲んでたら腹立って仕方ないでしょうよ」

「んなこと言うなよー、幼馴染だろ?」

「幼馴染関係ないから」

六つ子と了子は家が近い上に同い年の幼馴染だった。
小さい頃は顔の区別が全然つかず、よく間違えていたけども十年も一緒にいたらさすがに見分け着くようになる。
ぶーたれるおそ松を横目に了子は眠そうな一松の隣へと座った。

「うっわ一松、あんた下戸のくせにこんなに飲んだの!?ほら、残り飲んだげるから貸して」

そう言えば机に俯せになっていた一松の顔が少し上がり、手に握られていた缶ビールを彼女に差し出す。
そして一言。

「……了子、膝貸して」

飲む度にこのパターンが決まってしまっているので彼女は缶ビールを手に取り自身の太腿を軽く叩いた。

「あいよ、おいで」

「………ん」

そう言えばごろり、と一松の頭が乗る。
本気で酔っているのかいつも以上に重い。

「ねぇ、なんで了子ちゃんは一松兄さんにそんな甘いの?カラ松兄さんもお酒弱いけど膝枕なんてしないじゃない」

トド松が少し不満そうな顔で缶サワーに口をつければ、彼女も一松の飲んだビールをあおる。

「カラ松は下戸だけどちゃんと節制して飲むじゃん。一松は限界まで飲みやがるから」

「膝枕はー?」

「あんたらだって言ってくれりゃあ貸すよ膝くらい」

「じゃあ僕反対の膝借りて良い?」

「いいよ」

トド松は嬉しそうな顔を浮かべるといそいそと一松とは反対側に寝転がりをふふっと微笑む。
すると了子の背中に強い衝撃。首元を見れば黄色のだるっとしたパーカーの袖。

「十四松、意外と飲むよねあんた」

酒臭い、と背中から抱きついている十四松の頭を軽く叩けばえへえへと笑い声が聞こえる。

「おれだって了子ちゃんにぎゅーしたい!!!!」

「もうしてるじゃん」

弟三人のハーレム状態な彼女にチョロ松が頬杖をつきながら口を開く。

「了子は下三人に甘すぎんだろ」

「むしろ上三人は来ないけどね?」

来る?と両手を広げればチョロ松は赤い顔をもっと赤くして行かねーよっ!と机を叩いた。
飲むと口が悪くなるのが三男の特徴だな。

「じゃあ俺におっぱい貸してー!!」

「貸さねえよ!!!寝てろ童貞!!!!!」

「いやみんな童貞だから」

了子自身も酔いが回ってきたらしい。
おそ松の欲望丸出しな要求もけっこういつも通りだったりする。

「ほら、了子もあまり飲むな。疲れてるせいか酔うの早いぞ」

多分この空間で一番酔っていないカラ松が彼女の手から缶を取り上げた。
その行為に了子はえー、と声をあげる。

「押しかけてきたのそっちでしょー?諦めて酔っぱらう事にしたのー。返してー」

「お前…明日仕事は?」

「やすみ」

「まあ…それなら……」

渋々、とカラ松が缶を彼女の前に戻せばほわっとした笑みを了子は浮かべた。

「ありがと、カラ松おにーちゃん」

「おう……っは!?お兄ちゃん!?!?」

「おそ松よりお兄ちゃんらしいよ同い年だけど」

けたけた笑う彼女にカラ松は恥ずかしいのかその場に蹲ってしまう。
耳が真っ赤だ。

「あーもう!こうなったらヤケだ!!」

いきなりチョロ松が叫ぶので了子はびくり、と肩を震わせた。

「俺は了子の事お姉ちゃんって呼ぶ!!!了子お姉ちゃん!!!!!」

「お、おう…」

これそうとう溜まってたんじゃないか…真ん中とは難しいものらしい。
机に突っ伏してお姉ちゃん、と泣き出したチョロ松を撫でる。
少し撫でていたら泣き声が寝息へと変化していた。
よく見ればもう起きているのは了子とおそ松のみ。

「なんでおそ松はそんなに酒強いのよ」

「さあ?長男だからじゃね?」

「関係ないよねそれ」

この台詞さっきも言った気がする。
そして眠い。いつもより飲んでないはずなのに。
多分自分に引っ付いている男共の体温でふわふわしてきているのだろう。

すると頭に大きな掌が乗った。

「了子お疲れ。おやすみ」

わしゃわしゃと撫でるその手は暖かくて、だてに六つ子の長男やってないなと思う。

「ははっ、そう言うならさっさと…働きなさいよ、ニート…め………」

そのまますぅ、と眠りにつく了子におそ松は苦笑を漏らし、
彼女の背中に張り付いて寝ている十四松をはがした。そして床に寝かす。
了子が嫌がるくせにいつも来るから、と用意してある人数分の毛布を一人づつ被せ、
電気を消して自分も毛布へと潜り込んだ。


そんな幼馴染と六つ子のお話。

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